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1000文字ほどほどで頑張る場所
- 五条弾とくのたまちゃん(13)
- 名探偵コナン(8)
- 呪術廻戦(8)
- 概要(1)
2024年7月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
#名探偵コナン
諸伏高明✖️弟の友達 その②
同僚から元彼からのストーカー被害に悩んでいて、家族からは警察へ相談へ行けと何度も言われているけれど、警察へ行くのも怖くて迷っている、と聞かされたときに、まず頭に浮かんだのはコウメイさんのことだった。
コウメイさんは近所に住んでいた友達のお兄さんで、先日道端でばったりと出くわした。というか、私がその友達と勘違いして話しかけてしまったのだ。なんやかやと連絡先を交換して、時折ご飯を食べに行ったり行楽に行く関係が続いている。彼も私も恋人がおらず趣味が似ているので、いい友人関係なのだ。
少し悩んでから同僚に「刑事さんの知り合いがいるので、相談に乗ってくれないか聞いてみる」と言ってから、コウメイさんは何とその日中に会う段取りを付けてくれた。そしてその三時間後には、なぜか私はコウメイさんの勤務する県警本部にいた。
コウメイさんに話を聞いてもらい、コウメイさんも付き添ってくれると言うのでとりあえずこれから最寄りの警察署へ行こうとしていたときに、件のストーカー、つまり同僚の元彼が「男と会っている!!」と激高して襲ってきたのだ。展開が早すぎる。
まあそのストーカーの元彼がコウメイさんのような人に適うはずもなく、私と同僚を尾けていた不審者に気づいたコウメイさんが、早々に呼んでいた応援の刑事さんに取り押さえられて、お縄になった。そのまま調書を作ると同僚と共に県警に連れてこられたというわけだ。
「先ほどのような、ああいう行いは感心しませんね」
コウメイさんがそう切り出したのは、彼の車の中でのことだった。夜も遅いし送ると言われたので、ありがたく彼の車に乗り込んだのだ。コウメイさんはハンドルを握りながら、じっと信号を見ている。
「『ああいう』とは……?」
「あなた、先ほどの男が襲ってきたときに同僚の女性を庇って、前に出たでしょう」
コウメイさんに自宅まで送ってもらうのは、これが初めてのことではない。彼は勝手知ったるように私の家まで車を走らせていく。
「ああ。あの人が彼女を狙っているのはわかっていましたし」
「そういった自己犠牲的な行いは、すべきではありません」
「でも、何もせず目の前で人が刺されるほうが、後で後悔しませんか?」
そう言えば、コウメイさんは深々と溜息を吐いた。いつの間にか自宅のマンションの前に到着していて、私はコウメイさんに今日のお礼を言おうと、彼を見る。するとコウメイさんも、私のほうを見ていた。
「…………心配になるので、やめてくれませんか?」
小さな子どもに言い聞かせるようなコウメイさんの物言いに、私はぐっと言葉に詰まる。幼少期にも世話になったことがある人というのは、ずるいのだ。都合のいいときばかり、こちらを子ども扱いして優しくして、言い聞かせようとしてくる。コウメイさんみたいに。
「……気を付けます」
「素直でよろしい」
コウメイさんはふっと笑い声を溢して、しおしおと項垂れた私の頭を軽く撫でた。私には兄弟はいないが、兄がいたらこんな感じなんだろうか。大きな手のひらが少しくすぐったい気持ちで彼を見れば、目が合ったコウメイさんは「しまった」と我に返った顔をして、さっと手を引いた。
「申し訳ありません。セクハラでした」
「……は、……え!!? いえ気にしてません!! なんならもう百回ぐらい撫でていただいてもいいです! 私のことは犬か猫だと思って!! さあ! どうぞ!!」
「……あの、あなたも妙齢の女性なのですから。『自分を犬猫だと思え』は、どうかと思いますよ」
そう言って窘める顔のコウメイさんは、それから堪えきれないとばかりに少し笑った。だから、私も嬉しくて笑ってしまった。
笑ったその顔は今も、おもかげの中のひろみつ君と、そっくりだったのだ。
by request, Thank you!
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諸伏高明✖️弟の友達 その②
同僚から元彼からのストーカー被害に悩んでいて、家族からは警察へ相談へ行けと何度も言われているけれど、警察へ行くのも怖くて迷っている、と聞かされたときに、まず頭に浮かんだのはコウメイさんのことだった。
コウメイさんは近所に住んでいた友達のお兄さんで、先日道端でばったりと出くわした。というか、私がその友達と勘違いして話しかけてしまったのだ。なんやかやと連絡先を交換して、時折ご飯を食べに行ったり行楽に行く関係が続いている。彼も私も恋人がおらず趣味が似ているので、いい友人関係なのだ。
少し悩んでから同僚に「刑事さんの知り合いがいるので、相談に乗ってくれないか聞いてみる」と言ってから、コウメイさんは何とその日中に会う段取りを付けてくれた。そしてその三時間後には、なぜか私はコウメイさんの勤務する県警本部にいた。
コウメイさんに話を聞いてもらい、コウメイさんも付き添ってくれると言うのでとりあえずこれから最寄りの警察署へ行こうとしていたときに、件のストーカー、つまり同僚の元彼が「男と会っている!!」と激高して襲ってきたのだ。展開が早すぎる。
まあそのストーカーの元彼がコウメイさんのような人に適うはずもなく、私と同僚を尾けていた不審者に気づいたコウメイさんが、早々に呼んでいた応援の刑事さんに取り押さえられて、お縄になった。そのまま調書を作ると同僚と共に県警に連れてこられたというわけだ。
「先ほどのような、ああいう行いは感心しませんね」
コウメイさんがそう切り出したのは、彼の車の中でのことだった。夜も遅いし送ると言われたので、ありがたく彼の車に乗り込んだのだ。コウメイさんはハンドルを握りながら、じっと信号を見ている。
「『ああいう』とは……?」
「あなた、先ほどの男が襲ってきたときに同僚の女性を庇って、前に出たでしょう」
コウメイさんに自宅まで送ってもらうのは、これが初めてのことではない。彼は勝手知ったるように私の家まで車を走らせていく。
「ああ。あの人が彼女を狙っているのはわかっていましたし」
「そういった自己犠牲的な行いは、すべきではありません」
「でも、何もせず目の前で人が刺されるほうが、後で後悔しませんか?」
そう言えば、コウメイさんは深々と溜息を吐いた。いつの間にか自宅のマンションの前に到着していて、私はコウメイさんに今日のお礼を言おうと、彼を見る。するとコウメイさんも、私のほうを見ていた。
「…………心配になるので、やめてくれませんか?」
小さな子どもに言い聞かせるようなコウメイさんの物言いに、私はぐっと言葉に詰まる。幼少期にも世話になったことがある人というのは、ずるいのだ。都合のいいときばかり、こちらを子ども扱いして優しくして、言い聞かせようとしてくる。コウメイさんみたいに。
「……気を付けます」
「素直でよろしい」
コウメイさんはふっと笑い声を溢して、しおしおと項垂れた私の頭を軽く撫でた。私には兄弟はいないが、兄がいたらこんな感じなんだろうか。大きな手のひらが少しくすぐったい気持ちで彼を見れば、目が合ったコウメイさんは「しまった」と我に返った顔をして、さっと手を引いた。
「申し訳ありません。セクハラでした」
「……は、……え!!? いえ気にしてません!! なんならもう百回ぐらい撫でていただいてもいいです! 私のことは犬か猫だと思って!! さあ! どうぞ!!」
「……あの、あなたも妙齢の女性なのですから。『自分を犬猫だと思え』は、どうかと思いますよ」
そう言って窘める顔のコウメイさんは、それから堪えきれないとばかりに少し笑った。だから、私も嬉しくて笑ってしまった。
笑ったその顔は今も、おもかげの中のひろみつ君と、そっくりだったのだ。
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#名探偵コナン
諸伏高明✖️弟の友達 その①
ひろみつ君、と思わず声をかけたのは、記憶の中にあるひろみつ君と背中の骨の形がよく似ていたからだ。小学校の同級生だったひろみつ君は東都へ引っ越ししてしまったけど、夏休みや冬休みには長野へ戻ってきていて、そのときに数度会った。年によくて一回会う程度の彼は、他の同級生よりも成長の具合がわかりやすかった。だって年に一回会えるか会えないか、だったから。
だから、駅の近くでひろみつ君に似たスーツの背中を見たときに「前に見たときと似たひろみつ君だ」と思ったのは、私の中では道理だった。けれど振り向いたその人は、ひろみつ君ではなくてもっと年上の男の人だった。
「景光は私の弟ですが……」
暗にあなたは?と聞かれて、慌ててひろみつ君の同級生なのだ、と答える。彼はそうですか、と綻ぶように言って、少し考える素振りをしてから時間があるならお茶でもどうか、と言われた。最近会っていないので友人からの景光の話が聞きたいと彼は言い、大して話せる話があるわけではないが、お兄さんからひろみつ君の話が聞いてみたいのは、私も同じだった。
ひろみつ君は、私の初恋だった。
みんなでかくれんぼをしていたときに、私だけ見つけてもらえなかったことが一度あった。見つけてもらえるのを待っているうちにいつ間にか日が暮れて、暗くて怖くて、動けなくなってしまった。そんなときに見つけてくれたのがひろみつ君だった。
「ああ、あの時の子はあなたですか」
腰を落ち着けた喫茶店でその話をしたら、お兄さんは心当たりがあるようだった。
「景光と一緒に遊んでいた女の子が日が暮れても帰って来ないと言うので、景光と探しに行ったことがあります。
その子はいつも隠れるのが上手で、景光に聞くと思ってもみないところ、鬼の後ろをついて回ったり一度探した場所に隠れ直したりと、人の死角を取るのが上手いようでした。確かあの時は植栽の中に入り込んで、怖くて身動きができなくなっていたんでしたね」
過去の自分のやらかしを他人に覚えられているというのは、恥ずかしいものだ。お兄さんの言う通りで、私は公園の植栽の奥に入り込んだはいいものの、あろうことかそこで寝てしまい、気がついたら周りは真っ暗だった。友達は、私を呼んでも返事がないので家に帰ったと思っていたらしい。
「植栽の枝が少し折れているの見つけて、景光に頼んで奥を見てもらったら本当に女の子が中にいたので、あの時は驚きました」
「う"ぅ……、その節は大変ご迷惑を…………」
「いえ、探したときは8歳とはいえ女の子が本当にこんなところに隠れるものか、と思ったのですが、景光は『あの子は見つからないなら、絶対隠れる』というもので。
私も感心した覚えがあります」
「恥ずかしい…………」
思わず顔を覆うと、お兄さんは微笑ましいものを見る目で私を見た。赤くなった頬と耳をパタパタと扇いでから、そういえば、と思った。
「だけど、見つけてくれたのがひろみつ君のお兄さんの二人なら。
私の初恋はひろみつ君ともう一人、お兄さんってことになるんですね」
あの時、見つけてもらったときの記憶は大泣きしたせいで曖昧だが、後からひろみつ君が見つけてくれたと聞いて、それからひろみつ君がヒーローみたいに思えたのだ。それが初恋の始まりだった。
だから見つけてくれたのがお兄さんもなら、ヒーローはひろみつ君とお兄さんの二人になる。
そう何気なく言えば、お兄さんは少し虚をつかれたような顔をしてから「なるほど」と、目尻を下げて笑った。
「なるほど。あなたのような可愛い人に『あなたが初恋だ』と言われるのは、確かに存外気分がいいものですね」
「あ、……え?! そういう意味ではなく!」
「そうですか? 私としては、それが天長地久であってもいいと、思いますよ」
「は、……は? え!?」
「そろそろ行きましょうか」
お兄さんは含み笑いをしながら伝票を取り、席を立った。どういう意味なのか聞いても教えてはくれず、「どうしてもわからなければ連絡下さい」と連絡先を書いた名刺を渡される。数日唸りながら言われた内容を考えてみたが全くわからず、名刺の連絡先に「わかりません」と泣きつきのメッセージを送った私に、お兄さんはこう返してきた。
『天長地久 天地が永遠につきないように、物事がいつまでも変わることなくあることの例え』
返信を見て、頭の中がじわじわと冴えていく。つまりお兄さんは「今も初恋が続いていてもいい」と言ったということか? それは一体どういう意図で……と困惑しながら思っていたところに、追加で返信がきた。冗談ですよ、の一言にほっと安堵の息を吐いたのもつかの間、続いた文言に私は再度唸ることになった。
『冗談ですよ。ところで折角連絡を下さったのですから、食事でも。
いかがですか?』
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諸伏高明✖️弟の友達 その①
ひろみつ君、と思わず声をかけたのは、記憶の中にあるひろみつ君と背中の骨の形がよく似ていたからだ。小学校の同級生だったひろみつ君は東都へ引っ越ししてしまったけど、夏休みや冬休みには長野へ戻ってきていて、そのときに数度会った。年によくて一回会う程度の彼は、他の同級生よりも成長の具合がわかりやすかった。だって年に一回会えるか会えないか、だったから。
だから、駅の近くでひろみつ君に似たスーツの背中を見たときに「前に見たときと似たひろみつ君だ」と思ったのは、私の中では道理だった。けれど振り向いたその人は、ひろみつ君ではなくてもっと年上の男の人だった。
「景光は私の弟ですが……」
暗にあなたは?と聞かれて、慌ててひろみつ君の同級生なのだ、と答える。彼はそうですか、と綻ぶように言って、少し考える素振りをしてから時間があるならお茶でもどうか、と言われた。最近会っていないので友人からの景光の話が聞きたいと彼は言い、大して話せる話があるわけではないが、お兄さんからひろみつ君の話が聞いてみたいのは、私も同じだった。
ひろみつ君は、私の初恋だった。
みんなでかくれんぼをしていたときに、私だけ見つけてもらえなかったことが一度あった。見つけてもらえるのを待っているうちにいつ間にか日が暮れて、暗くて怖くて、動けなくなってしまった。そんなときに見つけてくれたのがひろみつ君だった。
「ああ、あの時の子はあなたですか」
腰を落ち着けた喫茶店でその話をしたら、お兄さんは心当たりがあるようだった。
「景光と一緒に遊んでいた女の子が日が暮れても帰って来ないと言うので、景光と探しに行ったことがあります。
その子はいつも隠れるのが上手で、景光に聞くと思ってもみないところ、鬼の後ろをついて回ったり一度探した場所に隠れ直したりと、人の死角を取るのが上手いようでした。確かあの時は植栽の中に入り込んで、怖くて身動きができなくなっていたんでしたね」
過去の自分のやらかしを他人に覚えられているというのは、恥ずかしいものだ。お兄さんの言う通りで、私は公園の植栽の奥に入り込んだはいいものの、あろうことかそこで寝てしまい、気がついたら周りは真っ暗だった。友達は、私を呼んでも返事がないので家に帰ったと思っていたらしい。
「植栽の枝が少し折れているの見つけて、景光に頼んで奥を見てもらったら本当に女の子が中にいたので、あの時は驚きました」
「う"ぅ……、その節は大変ご迷惑を…………」
「いえ、探したときは8歳とはいえ女の子が本当にこんなところに隠れるものか、と思ったのですが、景光は『あの子は見つからないなら、絶対隠れる』というもので。
私も感心した覚えがあります」
「恥ずかしい…………」
思わず顔を覆うと、お兄さんは微笑ましいものを見る目で私を見た。赤くなった頬と耳をパタパタと扇いでから、そういえば、と思った。
「だけど、見つけてくれたのがひろみつ君のお兄さんの二人なら。
私の初恋はひろみつ君ともう一人、お兄さんってことになるんですね」
あの時、見つけてもらったときの記憶は大泣きしたせいで曖昧だが、後からひろみつ君が見つけてくれたと聞いて、それからひろみつ君がヒーローみたいに思えたのだ。それが初恋の始まりだった。
だから見つけてくれたのがお兄さんもなら、ヒーローはひろみつ君とお兄さんの二人になる。
そう何気なく言えば、お兄さんは少し虚をつかれたような顔をしてから「なるほど」と、目尻を下げて笑った。
「なるほど。あなたのような可愛い人に『あなたが初恋だ』と言われるのは、確かに存外気分がいいものですね」
「あ、……え?! そういう意味ではなく!」
「そうですか? 私としては、それが天長地久であってもいいと、思いますよ」
「は、……は? え!?」
「そろそろ行きましょうか」
お兄さんは含み笑いをしながら伝票を取り、席を立った。どういう意味なのか聞いても教えてはくれず、「どうしてもわからなければ連絡下さい」と連絡先を書いた名刺を渡される。数日唸りながら言われた内容を考えてみたが全くわからず、名刺の連絡先に「わかりません」と泣きつきのメッセージを送った私に、お兄さんはこう返してきた。
『天長地久 天地が永遠につきないように、物事がいつまでも変わることなくあることの例え』
返信を見て、頭の中がじわじわと冴えていく。つまりお兄さんは「今も初恋が続いていてもいい」と言ったということか? それは一体どういう意図で……と困惑しながら思っていたところに、追加で返信がきた。冗談ですよ、の一言にほっと安堵の息を吐いたのもつかの間、続いた文言に私は再度唸ることになった。
『冗談ですよ。ところで折角連絡を下さったのですから、食事でも。
いかがですか?』
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2024年6月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
#呪術廻戦
七海建人✖️年上幼馴染
そんなことないよ、と言ってくれる期待をしていた。それに気づいたのは彼女が唇の端を小さく震わせたのを見てから、だった。
自律的な男である、と七海は周りから称されるし自身でもそうありたいと思っている。随分久しぶりに生家近くへ戻ってきて、幼少の頃に遊んだ小さな公園を眺めたりしていた。向こうがぼんやりとこちらを眺めるので、七海のほうもようやく、ああ、あれは子どもの頃に一緒に遊んだ近所の少し年上の少女だった、と思い出したのだった。買い物帰りだったらしい彼女は小さく手を振って、七海に話しかけた。それが再会だった。
再会した彼女と男女の関係になるのにそう大した時間はかからず、七海は自分の職業を聞かれて「専門職」とだけ答えていた。時折生傷を作って帰ったときはあまり彼女に見つからないように気を遣ったし、任務中には連絡がつかないこともあった。
危ぶむような、不安げな彼女の視線を知らなかったわけではなく、ただどうすることが正解なのかは七海にもわからなかった。
「仕事中」にばったりと出会してしまったのは、きっとそういう七海の煮え切らなさへの戒めのようなものなのだろう。鉈で叩き割った呪霊の頭と、その奥で呆然と七海を見る彼女の大きな目が、心に染みついている。
「……建人くんはさ、」
どうにか予定を合わせて会った彼女の、七海から逸らされた目を見て終わりを悟った。大きく花のように、呪霊の血が散った。飛び散った血は七海の頬に噴きかかり、血潮が七海のシャツを服を髪を、肌を、汚した。彼女が触れて、合間の小さな愛を噛み締めたほんの少しの時間に、彼女が指先で悪戯に辿った七海の肌を、赤い血が汚していった。
「ごめんね、なんて言えばいいか、わからないや」
人気の多いカフェのテラスの陽光の中で、白く彼女は困ったように微笑んでいる。私は。小さく言いかけた七海に少し視線を移して、そして彼女は困ったように目を細めた。
「ああしたものを『殺して』生計を立てています。今回のように恐ろしい異形もいますが、そればかりでもない。どうか理解がもらえれば、と」
「教えてもらえていたら、違ったかもしれないと思うよ。そういう心の準備があれば。……でも建人くんは教えてくれなかったじゃない」
自業自得なのだ、と暗に言われて喉の奥が痛んだ。飲み込めない唾液は、けれど、からからに喉が渇いていく。
喘ぐように、「怖いですか」と聞いた。彼女の唇の端が小さく震える。小さな子ども頃にも聞いた、彼女を見る七海の目にそっと微笑んで、言ってくれる。「そんなことないよ」というその許しが、欲しかった。
甘く淡い愛に焦がれて、彼女の優しさに甘えて、そして心を置き去りにした。これは報いなのだ、と自分に言い聞かせるのにも、目の前の彼女の合わない視線が胸の底を抉る。神様も何もかも、ひとつもない。きっと人生とは自分自身とは、クソだ。
彼女は伝票を持って出て行った。置き去りのアイスコーヒーのグラスの肌を、結露した雫が伝っていく。外は晴れて白い日差しが差し込むのに、向かいの席に彼女はもう、いない。
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七海建人✖️年上幼馴染
そんなことないよ、と言ってくれる期待をしていた。それに気づいたのは彼女が唇の端を小さく震わせたのを見てから、だった。
自律的な男である、と七海は周りから称されるし自身でもそうありたいと思っている。随分久しぶりに生家近くへ戻ってきて、幼少の頃に遊んだ小さな公園を眺めたりしていた。向こうがぼんやりとこちらを眺めるので、七海のほうもようやく、ああ、あれは子どもの頃に一緒に遊んだ近所の少し年上の少女だった、と思い出したのだった。買い物帰りだったらしい彼女は小さく手を振って、七海に話しかけた。それが再会だった。
再会した彼女と男女の関係になるのにそう大した時間はかからず、七海は自分の職業を聞かれて「専門職」とだけ答えていた。時折生傷を作って帰ったときはあまり彼女に見つからないように気を遣ったし、任務中には連絡がつかないこともあった。
危ぶむような、不安げな彼女の視線を知らなかったわけではなく、ただどうすることが正解なのかは七海にもわからなかった。
「仕事中」にばったりと出会してしまったのは、きっとそういう七海の煮え切らなさへの戒めのようなものなのだろう。鉈で叩き割った呪霊の頭と、その奥で呆然と七海を見る彼女の大きな目が、心に染みついている。
「……建人くんはさ、」
どうにか予定を合わせて会った彼女の、七海から逸らされた目を見て終わりを悟った。大きく花のように、呪霊の血が散った。飛び散った血は七海の頬に噴きかかり、血潮が七海のシャツを服を髪を、肌を、汚した。彼女が触れて、合間の小さな愛を噛み締めたほんの少しの時間に、彼女が指先で悪戯に辿った七海の肌を、赤い血が汚していった。
「ごめんね、なんて言えばいいか、わからないや」
人気の多いカフェのテラスの陽光の中で、白く彼女は困ったように微笑んでいる。私は。小さく言いかけた七海に少し視線を移して、そして彼女は困ったように目を細めた。
「ああしたものを『殺して』生計を立てています。今回のように恐ろしい異形もいますが、そればかりでもない。どうか理解がもらえれば、と」
「教えてもらえていたら、違ったかもしれないと思うよ。そういう心の準備があれば。……でも建人くんは教えてくれなかったじゃない」
自業自得なのだ、と暗に言われて喉の奥が痛んだ。飲み込めない唾液は、けれど、からからに喉が渇いていく。
喘ぐように、「怖いですか」と聞いた。彼女の唇の端が小さく震える。小さな子ども頃にも聞いた、彼女を見る七海の目にそっと微笑んで、言ってくれる。「そんなことないよ」というその許しが、欲しかった。
甘く淡い愛に焦がれて、彼女の優しさに甘えて、そして心を置き去りにした。これは報いなのだ、と自分に言い聞かせるのにも、目の前の彼女の合わない視線が胸の底を抉る。神様も何もかも、ひとつもない。きっと人生とは自分自身とは、クソだ。
彼女は伝票を持って出て行った。置き去りのアイスコーヒーのグラスの肌を、結露した雫が伝っていく。外は晴れて白い日差しが差し込むのに、向かいの席に彼女はもう、いない。
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2024年5月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
#名探偵コナン
諸伏高明✖️部下 ⚠️エロはないけど下ネタ
えっコウメイさんが私の裏垢のフォロワーになるって言うんですか⁈
徹夜を覚悟した夜中の午前三時、捜一のフロアには私しかいなかった。ぼやぼやとエナドリを啜りながらPCを叩いていたが、ふと「今だ」というよからぬ閃きが、脳裏をF1カー並みの爆速で走り抜けた。
一階に夜勤詰めをしている警官と、警備員はいるがまだ巡回の時間ではない。私はそそくさと、オフィス内でもあまり特徴のなさそうな壁の隅に立った。あまり多くの情報は映らないように、そしてここがオフィスだということはわかるように。スマホのインカメで窓の閉じたブラインドとデスクの端、そして大半が自分自身の体となるように調整し、ここだという位置を決める。撮る構図が決まると、ひとつ大きく息を吐いてから、着ていたジャケットのボタンを外し、ブラウスをインナーごと、ぐいっと下から持ち上げた。巨乳というほどではないが、そこそこに質量のある物体がブラジャーに持ち上げられて、谷間を作っている。その状態でスマホの撮影ボタンを押した瞬間、オフィスのドアが開いた。
「お疲れ様です、まだ残って…………」
「あ」
目を丸くしたコウメイさんなど、なかなか見れるものではない。呆けた私はスマホを落としたが、コウメイさんは持っていた差し入れのコンビニ袋を落とさなかった。さすがである。
誓って言うが、お金が目当てでしていたわけではない。ただ仕事が忙しくて「そういう」関係も「そういう」行為もほとほとご無沙汰であったし、激務とトレーニングのせいで無駄に引き締まった体と、そこそこに出ている乳房は、自分の目から見ても「よきもの」に見えたのだ。
ふと思い立って写真に撮ってみたら更に「よき」だった。ベネ。だからそれが嬉しくて匿名で作ったSNSに投稿してみた。めちゃくちゃえっっっっちじゃん。。。。と褒められた。私もそう思うだよねベネベネ。などと思っていたら写真を撮るのも投稿するのも楽しくなってしまった。そういう顛末である。
「わかりました。まずアカウントを消しましょう」
「えっ」
「『えっ』とは?」
しらじらとした目を諸伏さんが私に向ける。その目線の鋭さに押されて、私はしおしおと俯いた。諸伏さんに今更諭されなくても、この行為が危険なことは承知している。それでもSNSという実体のない中でも、他人に手放しに褒められてちやほやされることに、心を慰められていた。
「……例えば先ほどあなたが撮ったこの写真」
そんな私の様子を見て溜息を落とした諸伏さんが、机の上に置かれた私のスマホをすいすいと操作して、話し始める。先ほど取った写真もたわわに胸がぎゅっと強調されて、大変「良き」な写真であった。諸伏さんは一瞬だけ動きを止めてから、その写真をピンチインしてブラインドを拡大する。
「このブラインドですが、素材の透過具合と劣化具合から、作られたメーカーと製造年度がおおよそわかります」
「えっコワっ」
「………… わかります。それがわかれば、そのメーカーがブラインドを卸したオフィスを探すこともできる。
更にこちらの写り込んだ机には、コーヒーの染みがありますね。拭き取られておらず長く汚れたままの状態であることから、掃除の頻度は高くなく、それを気にするようなまめまめしい人間は少ないことが推察できる。
恐らくだが職場には男性が多く、この写真を撮った人物はかなり硬めのオフィスファッションをしており、かつ、そこそこの激務をこなしている。そしてブラインドから、おおよその納入先が絞り込めれば。
……わかりますね」
さすが諸伏さんとしか言いようのない推理と言いぶりに、私は更にしおしお俯いた。「はい……」とか細く頷いてみたが、納得はしていなかった。それを見てとったのだろう。諸伏さんは「本当にやめる気ありますか?」と重ねて怖い声で聞いてきた。バレている。
「リスク判断ができないほど愚かではないでしょう。何をこんなものにそこまでこだわっているんですか」
「だって……仕事が辛くてもう駄目だって時に、この自撮りだけは絶対に褒めてくれる人がいるんです。それに慰められた私の心だけは、絶対に嘘じゃないんです。あの気持ちが嘘なら、慰めなんてこの世に存在しない」
言い切ると、諸伏さんは大きく溜息を落とし、額に手を当てた。わかっている、こんなことは職業倫理に反していて、職場のオフィスで写真を撮ったことが公になれば良くて減俸、悪ければ懲戒免職だ。それでもまだ、オフィスの写真は上げていないし今だけ諸伏さんが黙っていてくれれば、という淡い期待が捨てられない。
「……君の気持ちは、わかりました」
ややあって、絞り出すように諸伏さんが吐き出した。額に手を当てたまま、目元が隠れて表情が読み取れない。
「とりあえずそのアカウントは消してください」
「だから……」
「そして新しくアカウントを取り直して、限定公開にしてください。それなら目を瞑りましょう」
「でもそれじゃ、誰も私を褒めてくれません」
「私が一人だけ、フォロワーになります。いいねもコメントもします。それでいいでしょう」
「………………は?」
「褒められたいんでしょう?」
手のひらで口元を隠した諸伏さんは、じっとこちらを見る。大きな手のひらだった。指は私よりも太く、少し節くれ立っている。この人も男だったのだ、と今更な馬鹿げたことを思った。
「褒めてあげますよ。
私の語彙の限りを尽くして君が満足するような、コメントを書いてあげます」
鋭く怜悧な目で見られて、いいですね、と畳みかけられる。頷かざる得なかったのはお察しだけど、まるで意識していなかった上司が急に男を香らせてきたことに興奮しなかったと言えば、それは多分嘘になる。
こうして私と諸伏さんの、秘密の裏垢相互フォローが始まったのだった。
by request, Thank you!
続きます
全然1000字で終わらなかった😂ので、もうちょっと真面目に書きます。
リクエストいただいたのは『諸伏高明と部下の恋人』でしたが、すみませんこの後恋人になるということで何卒……🙏😭
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諸伏高明✖️部下 ⚠️エロはないけど下ネタ
えっコウメイさんが私の裏垢のフォロワーになるって言うんですか⁈
徹夜を覚悟した夜中の午前三時、捜一のフロアには私しかいなかった。ぼやぼやとエナドリを啜りながらPCを叩いていたが、ふと「今だ」というよからぬ閃きが、脳裏をF1カー並みの爆速で走り抜けた。
一階に夜勤詰めをしている警官と、警備員はいるがまだ巡回の時間ではない。私はそそくさと、オフィス内でもあまり特徴のなさそうな壁の隅に立った。あまり多くの情報は映らないように、そしてここがオフィスだということはわかるように。スマホのインカメで窓の閉じたブラインドとデスクの端、そして大半が自分自身の体となるように調整し、ここだという位置を決める。撮る構図が決まると、ひとつ大きく息を吐いてから、着ていたジャケットのボタンを外し、ブラウスをインナーごと、ぐいっと下から持ち上げた。巨乳というほどではないが、そこそこに質量のある物体がブラジャーに持ち上げられて、谷間を作っている。その状態でスマホの撮影ボタンを押した瞬間、オフィスのドアが開いた。
「お疲れ様です、まだ残って…………」
「あ」
目を丸くしたコウメイさんなど、なかなか見れるものではない。呆けた私はスマホを落としたが、コウメイさんは持っていた差し入れのコンビニ袋を落とさなかった。さすがである。
誓って言うが、お金が目当てでしていたわけではない。ただ仕事が忙しくて「そういう」関係も「そういう」行為もほとほとご無沙汰であったし、激務とトレーニングのせいで無駄に引き締まった体と、そこそこに出ている乳房は、自分の目から見ても「よきもの」に見えたのだ。
ふと思い立って写真に撮ってみたら更に「よき」だった。ベネ。だからそれが嬉しくて匿名で作ったSNSに投稿してみた。めちゃくちゃえっっっっちじゃん。。。。と褒められた。私もそう思うだよねベネベネ。などと思っていたら写真を撮るのも投稿するのも楽しくなってしまった。そういう顛末である。
「わかりました。まずアカウントを消しましょう」
「えっ」
「『えっ』とは?」
しらじらとした目を諸伏さんが私に向ける。その目線の鋭さに押されて、私はしおしおと俯いた。諸伏さんに今更諭されなくても、この行為が危険なことは承知している。それでもSNSという実体のない中でも、他人に手放しに褒められてちやほやされることに、心を慰められていた。
「……例えば先ほどあなたが撮ったこの写真」
そんな私の様子を見て溜息を落とした諸伏さんが、机の上に置かれた私のスマホをすいすいと操作して、話し始める。先ほど取った写真もたわわに胸がぎゅっと強調されて、大変「良き」な写真であった。諸伏さんは一瞬だけ動きを止めてから、その写真をピンチインしてブラインドを拡大する。
「このブラインドですが、素材の透過具合と劣化具合から、作られたメーカーと製造年度がおおよそわかります」
「えっコワっ」
「………… わかります。それがわかれば、そのメーカーがブラインドを卸したオフィスを探すこともできる。
更にこちらの写り込んだ机には、コーヒーの染みがありますね。拭き取られておらず長く汚れたままの状態であることから、掃除の頻度は高くなく、それを気にするようなまめまめしい人間は少ないことが推察できる。
恐らくだが職場には男性が多く、この写真を撮った人物はかなり硬めのオフィスファッションをしており、かつ、そこそこの激務をこなしている。そしてブラインドから、おおよその納入先が絞り込めれば。
……わかりますね」
さすが諸伏さんとしか言いようのない推理と言いぶりに、私は更にしおしお俯いた。「はい……」とか細く頷いてみたが、納得はしていなかった。それを見てとったのだろう。諸伏さんは「本当にやめる気ありますか?」と重ねて怖い声で聞いてきた。バレている。
「リスク判断ができないほど愚かではないでしょう。何をこんなものにそこまでこだわっているんですか」
「だって……仕事が辛くてもう駄目だって時に、この自撮りだけは絶対に褒めてくれる人がいるんです。それに慰められた私の心だけは、絶対に嘘じゃないんです。あの気持ちが嘘なら、慰めなんてこの世に存在しない」
言い切ると、諸伏さんは大きく溜息を落とし、額に手を当てた。わかっている、こんなことは職業倫理に反していて、職場のオフィスで写真を撮ったことが公になれば良くて減俸、悪ければ懲戒免職だ。それでもまだ、オフィスの写真は上げていないし今だけ諸伏さんが黙っていてくれれば、という淡い期待が捨てられない。
「……君の気持ちは、わかりました」
ややあって、絞り出すように諸伏さんが吐き出した。額に手を当てたまま、目元が隠れて表情が読み取れない。
「とりあえずそのアカウントは消してください」
「だから……」
「そして新しくアカウントを取り直して、限定公開にしてください。それなら目を瞑りましょう」
「でもそれじゃ、誰も私を褒めてくれません」
「私が一人だけ、フォロワーになります。いいねもコメントもします。それでいいでしょう」
「………………は?」
「褒められたいんでしょう?」
手のひらで口元を隠した諸伏さんは、じっとこちらを見る。大きな手のひらだった。指は私よりも太く、少し節くれ立っている。この人も男だったのだ、と今更な馬鹿げたことを思った。
「褒めてあげますよ。
私の語彙の限りを尽くして君が満足するような、コメントを書いてあげます」
鋭く怜悧な目で見られて、いいですね、と畳みかけられる。頷かざる得なかったのはお察しだけど、まるで意識していなかった上司が急に男を香らせてきたことに興奮しなかったと言えば、それは多分嘘になる。
こうして私と諸伏さんの、秘密の裏垢相互フォローが始まったのだった。
by request, Thank you!
続きます
全然1000字で終わらなかった😂ので、もうちょっと真面目に書きます。
リクエストいただいたのは『諸伏高明と部下の恋人』でしたが、すみませんこの後恋人になるということで何卒……🙏😭
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#呪術廻戦
夏油傑✖️後輩女子
終末論に興味があるかと聞いたときの少し間の抜けた顔や、どんな映画でも泣きどころで衒いなく泣いて見せるところ。人間の心には必ずどこかに光があり、きっと悪業には理由が、不運や不幸な運命には報いや救済があると信じているところが、どうしても嫌いだった。
美々子と菜々子を地方の小さな遊園地へ連れていったのは、そこであれば知己に会うこともないだろうという、怠慢であった。平日で人気もまばらな敷地の中で、風船を手渡してきたウサギの着ぐるみは、少し迷うような素振りを見せた後に、頭の被り物を脱いだ。
「……あの。お久しぶり、です」
「…………やあ」
呪専での一個下の学年の少女は、卒業の年度を越えて数年経っても記憶の中とあまり差異がなかった。夏油はぼんやりと彼女を見た。風船を持って駆け回る美々子と菜々子の、きゃらきゃらと笑う声がする。彼女はハッとした様子で、慌ててウサギの頭を被り直した。子どもに着ぐるみの中身が見えてはいけないと思ったのだろう。
「元気だった? 聞くのもおかしいけど」
「あ、はい。元気です。私も……、みんなも」
美々子と菜々子を視界に入れながら、近くのベンチに腰掛ける。あの子達はよくできた子たちだから、勝手に遠くへ行ってしまうことはあまりない。ベンチの隣をポンポンと叩くと、ウサギの着ぐるみは少し迷う素振りをしてから、大人しくそこに座った。
「あの。夏油先輩は、」
「戻らないよ」
先んじて言えば、その先の台詞を無くした彼女は「あ、」と小さな声を上げて押し黙った。ぎゅう、と着ぐるみの中で手のひらを握っているのがわかる。きっと補助監督の仕事でここにいるのだろう。呪力の強くない彼女は、初めから術師ではなく補助監督志望だった。たった数件の、彼女と二人で担当した任務のことを思い出す。善性に塗れた過去の自分は、彼女に危害のないように、心を配ったと思う。
「先輩は……、あの、先輩がいなくて皆寂しくて、五条先輩も、」
「うん」
「五条先輩もすごく辛そうで、あの、先輩、お願いします、戻って……」
「戻る訳ないだろ」
ぴしゃりと言いつけた物言いに、ひくっとウサギの中から息を吸い込む声が聞こえる。被り物の頭を掴んで、それを持ち上げると蒼白な顔の彼女は、震えた目をして夏油を見上げていた。いつの間にか美々子と菜々子のきゃらきゃらとした笑い声は止んで、二人は立ち止まって夏油と彼女を見ている。
「この世には、どうにも儘ならないことがある。君にも理解できた?」
嫌いだった。
善性に塗れて、努力には報いがあり不幸には後の幸福があり、悪業には理由がある。それを甘く信じていた彼女と、そして過去の自分自身と。
片手で掴めるほどの首筋を掴んで、肌は柔くて。殺すことは簡単で殺す理由もあった。それでも力を込めると祈るように彼女は瞼を閉じるので、理由がほしくなってしまうのだ。殺さない理由も殺すことが難しい理由も。
「だって儘らなくても、こうやって生きていくしか。仕方ないじゃないですか」
「だから嫌いだ、……君なんか」
それでも他でもなく彼女自身が、夏油の欲したその理由をぶち壊すのだ。絞り出した声は、泣き声みたいだった。
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夏油傑✖️後輩女子
終末論に興味があるかと聞いたときの少し間の抜けた顔や、どんな映画でも泣きどころで衒いなく泣いて見せるところ。人間の心には必ずどこかに光があり、きっと悪業には理由が、不運や不幸な運命には報いや救済があると信じているところが、どうしても嫌いだった。
美々子と菜々子を地方の小さな遊園地へ連れていったのは、そこであれば知己に会うこともないだろうという、怠慢であった。平日で人気もまばらな敷地の中で、風船を手渡してきたウサギの着ぐるみは、少し迷うような素振りを見せた後に、頭の被り物を脱いだ。
「……あの。お久しぶり、です」
「…………やあ」
呪専での一個下の学年の少女は、卒業の年度を越えて数年経っても記憶の中とあまり差異がなかった。夏油はぼんやりと彼女を見た。風船を持って駆け回る美々子と菜々子の、きゃらきゃらと笑う声がする。彼女はハッとした様子で、慌ててウサギの頭を被り直した。子どもに着ぐるみの中身が見えてはいけないと思ったのだろう。
「元気だった? 聞くのもおかしいけど」
「あ、はい。元気です。私も……、みんなも」
美々子と菜々子を視界に入れながら、近くのベンチに腰掛ける。あの子達はよくできた子たちだから、勝手に遠くへ行ってしまうことはあまりない。ベンチの隣をポンポンと叩くと、ウサギの着ぐるみは少し迷う素振りをしてから、大人しくそこに座った。
「あの。夏油先輩は、」
「戻らないよ」
先んじて言えば、その先の台詞を無くした彼女は「あ、」と小さな声を上げて押し黙った。ぎゅう、と着ぐるみの中で手のひらを握っているのがわかる。きっと補助監督の仕事でここにいるのだろう。呪力の強くない彼女は、初めから術師ではなく補助監督志望だった。たった数件の、彼女と二人で担当した任務のことを思い出す。善性に塗れた過去の自分は、彼女に危害のないように、心を配ったと思う。
「先輩は……、あの、先輩がいなくて皆寂しくて、五条先輩も、」
「うん」
「五条先輩もすごく辛そうで、あの、先輩、お願いします、戻って……」
「戻る訳ないだろ」
ぴしゃりと言いつけた物言いに、ひくっとウサギの中から息を吸い込む声が聞こえる。被り物の頭を掴んで、それを持ち上げると蒼白な顔の彼女は、震えた目をして夏油を見上げていた。いつの間にか美々子と菜々子のきゃらきゃらとした笑い声は止んで、二人は立ち止まって夏油と彼女を見ている。
「この世には、どうにも儘ならないことがある。君にも理解できた?」
嫌いだった。
善性に塗れて、努力には報いがあり不幸には後の幸福があり、悪業には理由がある。それを甘く信じていた彼女と、そして過去の自分自身と。
片手で掴めるほどの首筋を掴んで、肌は柔くて。殺すことは簡単で殺す理由もあった。それでも力を込めると祈るように彼女は瞼を閉じるので、理由がほしくなってしまうのだ。殺さない理由も殺すことが難しい理由も。
「だって儘らなくても、こうやって生きていくしか。仕方ないじゃないですか」
「だから嫌いだ、……君なんか」
それでも他でもなく彼女自身が、夏油の欲したその理由をぶち壊すのだ。絞り出した声は、泣き声みたいだった。
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#呪術廻戦
五条と乙骨✖️女生徒(side乙骨)
ねえ、と声をかけた横顔はもう僕を見ていなかった。
彼女とはとても親しい訳ではなかったが、全く心がない訳でもない。薄っすらとした恋のあわいを感じ取って、それが日々の小さな慰めであったりした。けれど今はもう、彼女からのそうした細やかな恋情を感じることができない。乙骨は隣でタオルを口元に当てる彼女の、硬質な横顔を盗み見た。
じっとりとした汗が首の裏に噴き出している。隣の彼女のうなじにも同じように汗が滲んでいるのを見てとり、乙骨はそっと目を逸らした。体操着の襟ぐりからにょっきりと突き出した首筋は真っ新に白く、見てはいけないものを見た気がした。
「ね、何見てるの」
「んー、」
「さっきからずっと向こう見てるから」
「んん、真希ちゃん」
彼女は頑として乙骨を見ようとしなかった。確かに彼女の視線の先では、真希とパンダが組み手をしている。しかしその視線は惰性を孕んで、なんの感情も見つからない。
そのとき、ふ、と校舎から気配を感じた。乙骨が振り向くと、彼女もつられて振り向く。校舎の窓辺には、長身の五条が影のようにひっそりと、立っていた。
普段の彼らしからぬ、しんとした視線に乙骨は困惑を返す。横の彼女がざり、と地面の砂を掴んだ。横目で見た指先が、喘ぐように砂を掴む。彼女の目線は怯えていて、そして五条から離されることはなさそうだった。
「……僕、君が好きなんだけど」
思わず呟いた言葉に、彼女の目線を五条から奪うこと以外の意図はなかった。しかし彼の意図を超えて、彼女はまるで心臓に杭を刺されたような顔をして、乙骨を見た。
彼女の硝子玉のような目にようやく自分が映り込んだことに、かすかに充足感を覚える。腕を伸ばし、彼女のうなじを指先でなぞった。濡れた質感があり、指先についたその汗を舐め取ると、彼女はかっと顔を赤らめた。
「君は僕のこと、どう思ってる?」
教えて。
梢の葉ずれの音にも紛れて消えそうか、という乙骨の問いかけに、彼女はもごもごと口籠る。あ、とか、う、とか。答えにもなっていない発声に、乙骨は再度彼女の首筋に手をかけた。ぬったりと舐めた唇は、少しだけ土埃の苦い味がした。
五条せんせが、見てる。
そう言って彼女は乙骨の胸を押すが、服を掴む仕草はまるで甘えるようで、口元を甘く吸われることに抵抗は見られない。体操着のハーフパンツの端から覗く張りのある太ももと、その体操着に隠れて見えるか見えないかの位置にある、内ももの内出血の指の跡と。
男の指ほどの間隔だ、と思った。それも背が高く体格のいい、手のひらの大きな男のものだろう。
――五条せんせって、昔から知ってるから、だから本当のお兄ちゃんみたいに思ってるんだぁ、内緒だよ。
いつか五条と彼女の婚約について聞いたときの、彼女のはにかむような恥ずかしそうな笑顔を思い出す。はふはふ、と息を溢す彼女の口を吸い取って、声を吸い取って、どうか誰も呼ばないで。
兄のようだ、と言った彼女の微笑みだけが今の乙骨にはよすがだった。背後で草を踏む、足音がする。
by request, Thank you!
学生時代の乙パイセンはショジョチューだと信じてる派閥です。
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五条と乙骨✖️女生徒(side乙骨)
ねえ、と声をかけた横顔はもう僕を見ていなかった。
彼女とはとても親しい訳ではなかったが、全く心がない訳でもない。薄っすらとした恋のあわいを感じ取って、それが日々の小さな慰めであったりした。けれど今はもう、彼女からのそうした細やかな恋情を感じることができない。乙骨は隣でタオルを口元に当てる彼女の、硬質な横顔を盗み見た。
じっとりとした汗が首の裏に噴き出している。隣の彼女のうなじにも同じように汗が滲んでいるのを見てとり、乙骨はそっと目を逸らした。体操着の襟ぐりからにょっきりと突き出した首筋は真っ新に白く、見てはいけないものを見た気がした。
「ね、何見てるの」
「んー、」
「さっきからずっと向こう見てるから」
「んん、真希ちゃん」
彼女は頑として乙骨を見ようとしなかった。確かに彼女の視線の先では、真希とパンダが組み手をしている。しかしその視線は惰性を孕んで、なんの感情も見つからない。
そのとき、ふ、と校舎から気配を感じた。乙骨が振り向くと、彼女もつられて振り向く。校舎の窓辺には、長身の五条が影のようにひっそりと、立っていた。
普段の彼らしからぬ、しんとした視線に乙骨は困惑を返す。横の彼女がざり、と地面の砂を掴んだ。横目で見た指先が、喘ぐように砂を掴む。彼女の目線は怯えていて、そして五条から離されることはなさそうだった。
「……僕、君が好きなんだけど」
思わず呟いた言葉に、彼女の目線を五条から奪うこと以外の意図はなかった。しかし彼の意図を超えて、彼女はまるで心臓に杭を刺されたような顔をして、乙骨を見た。
彼女の硝子玉のような目にようやく自分が映り込んだことに、かすかに充足感を覚える。腕を伸ばし、彼女のうなじを指先でなぞった。濡れた質感があり、指先についたその汗を舐め取ると、彼女はかっと顔を赤らめた。
「君は僕のこと、どう思ってる?」
教えて。
梢の葉ずれの音にも紛れて消えそうか、という乙骨の問いかけに、彼女はもごもごと口籠る。あ、とか、う、とか。答えにもなっていない発声に、乙骨は再度彼女の首筋に手をかけた。ぬったりと舐めた唇は、少しだけ土埃の苦い味がした。
五条せんせが、見てる。
そう言って彼女は乙骨の胸を押すが、服を掴む仕草はまるで甘えるようで、口元を甘く吸われることに抵抗は見られない。体操着のハーフパンツの端から覗く張りのある太ももと、その体操着に隠れて見えるか見えないかの位置にある、内ももの内出血の指の跡と。
男の指ほどの間隔だ、と思った。それも背が高く体格のいい、手のひらの大きな男のものだろう。
――五条せんせって、昔から知ってるから、だから本当のお兄ちゃんみたいに思ってるんだぁ、内緒だよ。
いつか五条と彼女の婚約について聞いたときの、彼女のはにかむような恥ずかしそうな笑顔を思い出す。はふはふ、と息を溢す彼女の口を吸い取って、声を吸い取って、どうか誰も呼ばないで。
兄のようだ、と言った彼女の微笑みだけが今の乙骨にはよすがだった。背後で草を踏む、足音がする。
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#呪術廻戦
五条と乙骨✖️女生徒(side五条)
⚠️R18・♡喘ぎ注意⚠️
高校生含む18歳未満の閲覧を禁じます。
信じていた、と言ったら嘘になる。
腹の底に埋められた肉の塊が、子を孕むための袋の入り口をぐりぐりとこねている。若さゆえに柔らかさの欠片もなく、子袋の淵を叩かれても、彼女には快感どころか痛みしかなかった。
しかし自分を組み敷いた男のほうは、柔い恥肉に陰茎を包まれているだけで快楽が得られているようで、ハッと鋭い息を吐き出す。ぎゅう、と彼女が痛みに眉を顰めるのを見てとって、のし掛かってきている男――五条悟は体を起こし、奥まで差し込んでいた陰茎の角度を少し変えた。クリトリスの裏側の辺りから膀胱までをぐり、と押されて思わず「ひぁ、」と情けない声が漏れる。それを見た前担任の教師は、うっそりと笑った。
「いーい声出すじゃん」
「ン、ゃぁ♡、ぁ、ぅぅ"♡♡」
「お前ってさ、僕に抱かれるために、房中術の訓練受けてたんだって? ショジョの乱れ方じゃ、ないよね」
五条が腰をぐりぐりと振りたくる度に、じゅぶじゅぶと水気の音がする。五条の言う通り、血筋から五条の無下限術式を磨くために最適として育てられた彼女は、幼い頃から五条当主に取り入るための房中術を仕込まれて育った。膣奥を責められることは控えられたため処女膜さえは残っていたが、逆にそれ以外のことは大抵「仕込まれた」。
手前の膨らみを陰茎の先でぐりぐりと押し込まれて、彼女は泣いて首を振った。ぐぅぅ、と膣内が戦慄いて、五条の陰茎を締め付ける。まるで押し出すような締め付けに、軽く引き抜いた陰茎がそのまま抜けてしまった。ぐぽ、といやらしい音で陰茎が抜けたのと同時に、激しく噴き出した潮が五条の下腹を汚した。びゅ、びゅう、と音を立てそうなほどの勢いで噴き出したそれを彼女は止めることができず、五条の陰毛は彼女が噴き出した液体でしとどに濡れている。
泣いて自分を見た彼女の目に、五条はにったりと笑顔を返す。五条悟という男の中にも、女を泣かして喘がすことに快感と征服感を覚える心は残っている。
「あーあ。お前がこんなどエロい女だとは思わなかったなぁ」
「ヒ、ぁ、許して、せんせ、」
「オ。いいね、今『先生』って呼ばれるの、めちゃくちゃエローい」
閉じかけた足を、太ももを掴んで大きく開く。目元を隠す黒いアイマスクは取ってやらない。彼女が五条の授業を受けるとき、校舎で顔を合わせるとき。都度につけて今この時を思い出して、今差し込まれた陰茎の味を快楽を思い返して、そして苛まれればいい。再度奥までごちゅ、と突き入れられた陰茎に、彼女は膣内をこそげられて喉を逸らして喘いでいる。硬く尖った乳首をぎちぎちとつねって、反対の手のひらで彼女の頬を掴んだ。
「憂太にバレたら死んじゃうね?」
はくり、と呼吸が止まる。五条はハハっと小さく笑うと、再度の陰茎の突き上げを再開した。ごちゅごちゅと乱雑にかき回してくる腹の中の陰茎に、息を止めていた彼女は耐え切ることができず、ひいひいと泣いて五条の胸を押している。
淡い恋なんてしなければ、なければ、相手が乙骨でなければ。
五条家への供物として育てられた少女にかける憐れみは、彼女が乙骨憂太へ恋したことで奇しくも反転した。彼女の生家は相手が乙骨憂太であれば、彼女が嫁ぐことを許すだろう。五条には別の女をあてがうだろう。
幼い頃から憐れみをかけてきた。可哀想な少女を最大限に憐れみ、優しくしてきた。その末路が少女からの「憂太君が好きみたい」というはにかんだ告白なのであれば、五条の優しさはどこへ向けるべきだったのだろうか。
言わないで、と啜り泣く彼女に勿論、と返す。お前のいやらしい顔も喘ぎ声も痴態も全て僕だけのものだ。そう言った五条にひくり、と震えたのは涙に喘ぐ唇かそれとも陰茎を喰んだそこか。
どちらだったろうか。
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五条と乙骨✖️女生徒(side五条)
⚠️R18・♡喘ぎ注意⚠️
高校生含む18歳未満の閲覧を禁じます。
信じていた、と言ったら嘘になる。
腹の底に埋められた肉の塊が、子を孕むための袋の入り口をぐりぐりとこねている。若さゆえに柔らかさの欠片もなく、子袋の淵を叩かれても、彼女には快感どころか痛みしかなかった。
しかし自分を組み敷いた男のほうは、柔い恥肉に陰茎を包まれているだけで快楽が得られているようで、ハッと鋭い息を吐き出す。ぎゅう、と彼女が痛みに眉を顰めるのを見てとって、のし掛かってきている男――五条悟は体を起こし、奥まで差し込んでいた陰茎の角度を少し変えた。クリトリスの裏側の辺りから膀胱までをぐり、と押されて思わず「ひぁ、」と情けない声が漏れる。それを見た前担任の教師は、うっそりと笑った。
「いーい声出すじゃん」
「ン、ゃぁ♡、ぁ、ぅぅ"♡♡」
「お前ってさ、僕に抱かれるために、房中術の訓練受けてたんだって? ショジョの乱れ方じゃ、ないよね」
五条が腰をぐりぐりと振りたくる度に、じゅぶじゅぶと水気の音がする。五条の言う通り、血筋から五条の無下限術式を磨くために最適として育てられた彼女は、幼い頃から五条当主に取り入るための房中術を仕込まれて育った。膣奥を責められることは控えられたため処女膜さえは残っていたが、逆にそれ以外のことは大抵「仕込まれた」。
手前の膨らみを陰茎の先でぐりぐりと押し込まれて、彼女は泣いて首を振った。ぐぅぅ、と膣内が戦慄いて、五条の陰茎を締め付ける。まるで押し出すような締め付けに、軽く引き抜いた陰茎がそのまま抜けてしまった。ぐぽ、といやらしい音で陰茎が抜けたのと同時に、激しく噴き出した潮が五条の下腹を汚した。びゅ、びゅう、と音を立てそうなほどの勢いで噴き出したそれを彼女は止めることができず、五条の陰毛は彼女が噴き出した液体でしとどに濡れている。
泣いて自分を見た彼女の目に、五条はにったりと笑顔を返す。五条悟という男の中にも、女を泣かして喘がすことに快感と征服感を覚える心は残っている。
「あーあ。お前がこんなどエロい女だとは思わなかったなぁ」
「ヒ、ぁ、許して、せんせ、」
「オ。いいね、今『先生』って呼ばれるの、めちゃくちゃエローい」
閉じかけた足を、太ももを掴んで大きく開く。目元を隠す黒いアイマスクは取ってやらない。彼女が五条の授業を受けるとき、校舎で顔を合わせるとき。都度につけて今この時を思い出して、今差し込まれた陰茎の味を快楽を思い返して、そして苛まれればいい。再度奥までごちゅ、と突き入れられた陰茎に、彼女は膣内をこそげられて喉を逸らして喘いでいる。硬く尖った乳首をぎちぎちとつねって、反対の手のひらで彼女の頬を掴んだ。
「憂太にバレたら死んじゃうね?」
はくり、と呼吸が止まる。五条はハハっと小さく笑うと、再度の陰茎の突き上げを再開した。ごちゅごちゅと乱雑にかき回してくる腹の中の陰茎に、息を止めていた彼女は耐え切ることができず、ひいひいと泣いて五条の胸を押している。
淡い恋なんてしなければ、なければ、相手が乙骨でなければ。
五条家への供物として育てられた少女にかける憐れみは、彼女が乙骨憂太へ恋したことで奇しくも反転した。彼女の生家は相手が乙骨憂太であれば、彼女が嫁ぐことを許すだろう。五条には別の女をあてがうだろう。
幼い頃から憐れみをかけてきた。可哀想な少女を最大限に憐れみ、優しくしてきた。その末路が少女からの「憂太君が好きみたい」というはにかんだ告白なのであれば、五条の優しさはどこへ向けるべきだったのだろうか。
言わないで、と啜り泣く彼女に勿論、と返す。お前のいやらしい顔も喘ぎ声も痴態も全て僕だけのものだ。そう言った五条にひくり、と震えたのは涙に喘ぐ唇かそれとも陰茎を喰んだそこか。
どちらだったろうか。
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#呪術廻戦
宿儺✖️転生主 夢の中の逢瀬
がじり、と歯先で噛まれた舌からは血が滲み、飲み下すことのできない唾液がつらつらと口の端から垂れていく。捉えられた舌は逃げ出すこともできず、目の前の大男は薄く涙を浮かべて痛みに喘ぐ私を、うっそりと笑った。
痛いと言いたいのに、そんなことも許されない。結局私などという矮小な存在は、彼の一挙一動にすべてを支配されている。
「なんだ、なんぞ言いたそうな顔だな」
「そんなこと……」
「いいぞ、今は機嫌がいい。言ってみろ」
目尻をにったりと下げて言う宿儺は、確かに機嫌がいいようだった。血の滲んだ舌は、少し喋るたびに刺すように痛む。痛覚が痺れて、息を吐き出しては刺激を堪える私の様を、宿儺は愉快そうに見た。喉から鼻先へ抜けていくような血錆の香りに、痛みとはこんなものであったか、と記憶の底を手繰る。
「……いつか死んだときも、そうしてくれればよかった」
ようよう吐き出した言葉に、宿儺は少し眉を持ち上げる。いつか死んだときから百年二百年と経ち続けて、宿儺は私を痛めつけることだけを繰り返す。いつかの宿儺が南へ向かったまま今へと越えてくることだけじゃなくて、そこに私を連れて行ってくれればよかったのに。
噛まれた舌から刺すように、鮮血が滲む。「今の私」に入り込んで、児戯のように痛めつけてみせるなら、「いつか死んだ私」を捕まえていて、殺し尽くしておいてほしかった。「今の私」をつかんで戯れみたいに魂を縛る宿儺に、「いつか死んだ私」が悋気を起こして憎しみを吐く。
「痛めつけるが、殺す気はない」
そう言った宿儺は、嬉しそうだった。
一人で来世へ行ってしまった私は、いつか死ぬ前に置いていかれた憎しみに泣いて叫んだ私より、幾らも、新しくなってしまった。宿儺が無理やりにでも私の魂を縛って痛みだけを与えるその理由を、私は執着と解釈することは許されるだろうか。
小さな電子音のアラームが、宿儺との淡い逢瀬を切り裂いて、晴れた朝を突きつける。薄いカーテンの隙間から覗く朝日は白い。べったりとした宿儺の夢とは、まるで真反対だった。
夢の中だから、夢の中だからこそ。血錆の味はもう口内に残っていなくて、宿儺は結局私に何も残してくれない。夢の残滓の感情だけが鮮明で、モノも体も傷も痛みも、何一つ残りはしないのだ。
「殺す気がないなら、呼ばないでよ」
最低な気分だった。いつか死ぬ前に愛していた男に毒付こうが、彼に聞こえるはずもない。もし宿儺が私に執着を残したというなら、きっと、私のこの愚かさこそを、愉悦と思っていたのだろう。
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宿儺✖️転生主 夢の中の逢瀬
がじり、と歯先で噛まれた舌からは血が滲み、飲み下すことのできない唾液がつらつらと口の端から垂れていく。捉えられた舌は逃げ出すこともできず、目の前の大男は薄く涙を浮かべて痛みに喘ぐ私を、うっそりと笑った。
痛いと言いたいのに、そんなことも許されない。結局私などという矮小な存在は、彼の一挙一動にすべてを支配されている。
「なんだ、なんぞ言いたそうな顔だな」
「そんなこと……」
「いいぞ、今は機嫌がいい。言ってみろ」
目尻をにったりと下げて言う宿儺は、確かに機嫌がいいようだった。血の滲んだ舌は、少し喋るたびに刺すように痛む。痛覚が痺れて、息を吐き出しては刺激を堪える私の様を、宿儺は愉快そうに見た。喉から鼻先へ抜けていくような血錆の香りに、痛みとはこんなものであったか、と記憶の底を手繰る。
「……いつか死んだときも、そうしてくれればよかった」
ようよう吐き出した言葉に、宿儺は少し眉を持ち上げる。いつか死んだときから百年二百年と経ち続けて、宿儺は私を痛めつけることだけを繰り返す。いつかの宿儺が南へ向かったまま今へと越えてくることだけじゃなくて、そこに私を連れて行ってくれればよかったのに。
噛まれた舌から刺すように、鮮血が滲む。「今の私」に入り込んで、児戯のように痛めつけてみせるなら、「いつか死んだ私」を捕まえていて、殺し尽くしておいてほしかった。「今の私」をつかんで戯れみたいに魂を縛る宿儺に、「いつか死んだ私」が悋気を起こして憎しみを吐く。
「痛めつけるが、殺す気はない」
そう言った宿儺は、嬉しそうだった。
一人で来世へ行ってしまった私は、いつか死ぬ前に置いていかれた憎しみに泣いて叫んだ私より、幾らも、新しくなってしまった。宿儺が無理やりにでも私の魂を縛って痛みだけを与えるその理由を、私は執着と解釈することは許されるだろうか。
小さな電子音のアラームが、宿儺との淡い逢瀬を切り裂いて、晴れた朝を突きつける。薄いカーテンの隙間から覗く朝日は白い。べったりとした宿儺の夢とは、まるで真反対だった。
夢の中だから、夢の中だからこそ。血錆の味はもう口内に残っていなくて、宿儺は結局私に何も残してくれない。夢の残滓の感情だけが鮮明で、モノも体も傷も痛みも、何一つ残りはしないのだ。
「殺す気がないなら、呼ばないでよ」
最低な気分だった。いつか死ぬ前に愛していた男に毒付こうが、彼に聞こえるはずもない。もし宿儺が私に執着を残したというなら、きっと、私のこの愚かさこそを、愉悦と思っていたのだろう。
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#名探偵コナン
沖田くん✖️同級生女子
沖田君が髪を伸ばしている理由は知らないけれど、彼の髪が彼のまっさらな物言いと似て、芯があって強かな髪質であることは知っていた。
「なーあ、髪ゴムまた切れたわぁ」
「は、また?」
放課後の教室に残って日誌を書いていた私に、そう声をかけてきたのは件の沖田君だ。部活中だったのだろう、白い剣道着を着た彼は頬に垂れる髪をかき上げながら、教室の入り口で笑っていた。私はえええ、と苦い声をあげて鞄のポーチから百均の髪ゴムを取り出す。
「悪いなぁ」
「そう言うなら髪ゴムくらい予備を持ってきなよ」
いつもながら、悪いなんて全く思ってなさそうな言い振りだ。彼は差し出した髪ゴムを受け取ると、それを噛んで、後ろ手に髪をまとめ始めた。沖田君の節くれ立った指が不器用に動いて髪を纏めようとするが、ほつれて指先からすり抜けた髪が幾筋も首に落ちる。
「………………あかん」
「……もう、貸してよ」
「はは、悪ぃなぁ」
やっぱり悪いなんで欠片も思ってなさそうな声で、沖田君は噛んでいた髪ゴムをこちらに戻す。慣れたそぶりで一つ前の席の椅子を引いて、そこに腰掛けた。
「どうも鏡がないと勝手が違ってなぁ」
「トイレとかでやりなよ」
「いやぁ、ははぁ。面倒やん」
手櫛で硬質な彼の髪を梳かしていく。染めたことのない髪は手触りがよく、少しだけ石鹸の香りがする。彼の首筋に滲んだ薄い汗と、微かに震える私の指先。じゃれるような物言いに努めるけれど、胸の中では心臓が跳ねて、跳ねて、言うことを聞いてくれていない。
そんな私の心のうちを知らず、沖田君は手櫛で髪をとかれながらじっと黒板の方を見ていた。
「なぁ。俺以外にこんなこと、しぃひんでよ」
「他に髪ゴムが切れたなんて言ってくる人、いないよ」
反射的にじゃれ合いの延長で言い返してから、はっとして、髪を梳いていた指を少し止めた。まさか、そんな。
じくじくと、心臓が痛い。指を止めた私を、沖田君が肩越しに振り返って見た。彼の目尻は少し赤かったけれど、私の顔はもっと赤かったと思う。
「言うて、髪ゴム切れたなんてこと、俺がわざわざ言いに来る相手なんか、あんたしかおらんのやけど」
その意味、伝わるか?
ずるい沖田君はそう言って、髪に触れたままの私の指を自分の指でそっと摘んだ。節くれ立った指先は少し荒れていて、皮膚はびっくりするほど熱かった。
ねえそれ、好きですってことやん。言うてよ。
そう言いたかったのにずるい沖田君は、うわぁ顔真っ赤やん、カワイぃなぁと鼻先で笑うので、私はもう、何も言えなくなってしまった。
後日、剣道馬鹿の沖田君は寝起きに鏡なんて見たことないということを知って、私は再度赤面させられることになる。彼の髪の硬さとしなやかさを知っているのは、今のところ私のだけ、らしい。
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沖田くん✖️同級生女子
沖田君が髪を伸ばしている理由は知らないけれど、彼の髪が彼のまっさらな物言いと似て、芯があって強かな髪質であることは知っていた。
「なーあ、髪ゴムまた切れたわぁ」
「は、また?」
放課後の教室に残って日誌を書いていた私に、そう声をかけてきたのは件の沖田君だ。部活中だったのだろう、白い剣道着を着た彼は頬に垂れる髪をかき上げながら、教室の入り口で笑っていた。私はえええ、と苦い声をあげて鞄のポーチから百均の髪ゴムを取り出す。
「悪いなぁ」
「そう言うなら髪ゴムくらい予備を持ってきなよ」
いつもながら、悪いなんて全く思ってなさそうな言い振りだ。彼は差し出した髪ゴムを受け取ると、それを噛んで、後ろ手に髪をまとめ始めた。沖田君の節くれ立った指が不器用に動いて髪を纏めようとするが、ほつれて指先からすり抜けた髪が幾筋も首に落ちる。
「………………あかん」
「……もう、貸してよ」
「はは、悪ぃなぁ」
やっぱり悪いなんで欠片も思ってなさそうな声で、沖田君は噛んでいた髪ゴムをこちらに戻す。慣れたそぶりで一つ前の席の椅子を引いて、そこに腰掛けた。
「どうも鏡がないと勝手が違ってなぁ」
「トイレとかでやりなよ」
「いやぁ、ははぁ。面倒やん」
手櫛で硬質な彼の髪を梳かしていく。染めたことのない髪は手触りがよく、少しだけ石鹸の香りがする。彼の首筋に滲んだ薄い汗と、微かに震える私の指先。じゃれるような物言いに努めるけれど、胸の中では心臓が跳ねて、跳ねて、言うことを聞いてくれていない。
そんな私の心のうちを知らず、沖田君は手櫛で髪をとかれながらじっと黒板の方を見ていた。
「なぁ。俺以外にこんなこと、しぃひんでよ」
「他に髪ゴムが切れたなんて言ってくる人、いないよ」
反射的にじゃれ合いの延長で言い返してから、はっとして、髪を梳いていた指を少し止めた。まさか、そんな。
じくじくと、心臓が痛い。指を止めた私を、沖田君が肩越しに振り返って見た。彼の目尻は少し赤かったけれど、私の顔はもっと赤かったと思う。
「言うて、髪ゴム切れたなんてこと、俺がわざわざ言いに来る相手なんか、あんたしかおらんのやけど」
その意味、伝わるか?
ずるい沖田君はそう言って、髪に触れたままの私の指を自分の指でそっと摘んだ。節くれ立った指先は少し荒れていて、皮膚はびっくりするほど熱かった。
ねえそれ、好きですってことやん。言うてよ。
そう言いたかったのにずるい沖田君は、うわぁ顔真っ赤やん、カワイぃなぁと鼻先で笑うので、私はもう、何も言えなくなってしまった。
後日、剣道馬鹿の沖田君は寝起きに鏡なんて見たことないということを知って、私は再度赤面させられることになる。彼の髪の硬さとしなやかさを知っているのは、今のところ私のだけ、らしい。
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諸伏高明(?)✖️弟の友達 その③
近所に住んでいた少女と、東都で再会したのは全くの偶然だった。
警察学校に在籍していたころに、近所の公園でキャッチボールをしていたら泣いている子どもたちと行き当たったことがある。どうしたのかと思い話を聞けば、近所の大学生とかくれんぼをしていたが、全く見つからず困っているらしい。その大学生は隠れることが得意で、いつもは見つからなくても呼べばどこかから出てきてくれるのに、今日は出てきてくれない。そう言って泣く子どもたちを宥め、何となくどこかで聞いたことのある話だと思った。
結果として、その『大学生』は公園の植栽の奥で、膝を抱えて寝ていた。幼い頃の記憶が、ありありと蘇る。あのときも彼女はかくれんぼをして見つけられず、夜遅くまで植栽の中に隠れていた。
「……え?! 君って……」
「…………ん、ひろみつ、君……?」
驚きで素っ頓狂な声を上げた景光に、寝ていた彼女はぼんやりと目を開けて、景光を呼んだ。年に数度、長野へ帰省したときに彼女の顔を見ることもあった。それでも、東都のこんな場所に彼女がいるとは思ってもみなかった。
「え、なんでこんなところに……?」
「ん、会社の研修で本社に……、ひろみつ君は?」
「俺は警察学校に、今、通ってて」
「そっかぁ、警察官になるんだ」
景光の話を聞いた彼女は、嬉しそうにふにゃ、と笑った。
「昔もこうやって見つけに来てくれたものね。あのときのひろみつ君はヒーローみたいだったから、本当に正義のヒーローになっちゃうんだね。すごいね」
照れもせず恥ずかし気もなくそんなことをいう彼女に、景光のほうが赤面をして俯いた。ややあって遠くから自分を呼ぶ降谷の声がして、慌てて彼女を見れば、もう寝ていた。起きない彼女を抱えて植栽から這いずって出たのも、今ではいい思い出だ。
兄の車のナンバーは、特徴的だ。
長野へ戻ってきたのは、会うことはできなくても少しだけでも兄に顔を見て、そして両親の墓参りができれば、と思ったからだ。両親の墓は兄が世話を欠かしていないようできれいに掃除が行き届いており、身につまされるような申し訳のない気持ちになった。
兄のマンションにはまだ車が戻っておらず、昔住んでいた家や公園をぶらぶらと見ながら、昔、近所に住んでいた女の子を探したときのことを思い出す。自然と足が向いたのは、その彼女の自宅方面だった。
兄の車のナンバーは、特徴的だ。彼女の自宅の側まで走ってきたその車を見て、すぐに兄だとわかった。
木の陰に隠れながら車内で親しそうに会話をする二人を盗み見て、あの二人に面識はあっただろうか、と驚きと衝撃で霞む思考の奥で考えた。いや、なかっただろう。あればあんなにも素直で何を考えているのかすぐにわかる彼女が、お兄さんに会ったよ、と景光に話さないはずがない。
だから兄と彼女に面識ができたのは、景光が二人と連絡を取ることができなくなってからだ。
何事かを言った兄に、彼女が子犬のようにしょげて頭を垂れる。兄はそんな彼女を見て、仕方がない、とでも言うようにその頭を撫でた。兄はとても面倒見がよく、景光もいつもああして撫でられていた。兄の目は、幼い景光を見ていたときと同じものだった。
喉の奥が熱かった。ぐっと唾を飲み下そうにも、喉がからからに乾いている。喘ぐように、胸の奥が痛かった。自分はこんな木陰に隠れて二人を見ていて、その二人は親しそうに笑っている。紛うことなく、それは嫉妬の感情であった。
ややあって、兄は撫でていた手のひらを慌てて引き、恐らく謝罪したのだろう。それを聞いた彼女は大きく首を振り、もっと撫でてくれていいとでもいうように、自身の頭をぽんぽんと叩く。彼女の明るい声音が、少しだけ車外に漏れてきていた。
「俺、何、してんだろ……」
ぽつりと呟く。本当に、何をしているのだろう、自分は。
兄と彼女と、二人の前に姿を現すこともできず、両親の墓守りも何もかもを兄に押し付けて、彼女が笑って言った「正義のヒーロー」にあるまじき行いを、続けている。
彼女の言葉に思わず緩んだような兄の微笑みを見て、景光は耐えきれず二人に背を向けた。夜明けには東都へ戻らなければいけない。「警察官の職務」として与えられた、あの組織の「スコッチ」という役割に戻らなければいけない。
『本当に正義のヒーローになっちゃうんだね。すごいね』
耳の奥でいつかのあの日の、無垢な彼女の称賛が木霊する。すごくなんかない、俺じゃない。あのとき彼女を見つけたのだって、本当は兄だった。だからきっと彼女のヒーローは、俺じゃない。それでも、その言葉に縋って続けてきたのだ。だから、盗らないでほしかった。
彼女の初恋を、自分を彼女のヒーローのままでいさせてほしかった。
by request, Thank you!
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