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No.5

#呪術廻戦
五条と乙骨✖️女生徒(side乙骨)


 ねえ、と声をかけた横顔はもう僕を見ていなかった。
 彼女とはとても親しい訳ではなかったが、全く心がない訳でもない。薄っすらとした恋のあわいを感じ取って、それが日々の小さな慰めであったりした。けれど今はもう、彼女からのそうした細やかな恋情を感じることができない。乙骨は隣でタオルを口元に当てる彼女の、硬質な横顔を盗み見た。
 じっとりとした汗が首の裏に噴き出している。隣の彼女のうなじにも同じように汗が滲んでいるのを見てとり、乙骨はそっと目を逸らした。体操着の襟ぐりからにょっきりと突き出した首筋は真っ新に白く、見てはいけないものを見た気がした。

「ね、何見てるの」
「んー、」
「さっきからずっと向こう見てるから」
「んん、真希ちゃん」

 彼女は頑として乙骨を見ようとしなかった。確かに彼女の視線の先では、真希とパンダが組み手をしている。しかしその視線は惰性を孕んで、なんの感情も見つからない。
 そのとき、ふ、と校舎から気配を感じた。乙骨が振り向くと、彼女もつられて振り向く。校舎の窓辺には、長身の五条が影のようにひっそりと、立っていた。
 普段の彼らしからぬ、しんとした視線に乙骨は困惑を返す。横の彼女がざり、と地面の砂を掴んだ。横目で見た指先が、喘ぐように砂を掴む。彼女の目線は怯えていて、そして五条から離されることはなさそうだった。

「……僕、君が好きなんだけど」

 思わず呟いた言葉に、彼女の目線を五条から奪うこと以外の意図はなかった。しかし彼の意図を超えて、彼女はまるで心臓に杭を刺されたような顔をして、乙骨を見た。
 彼女の硝子玉のような目にようやく自分が映り込んだことに、かすかに充足感を覚える。腕を伸ばし、彼女のうなじを指先でなぞった。濡れた質感があり、指先についたその汗を舐め取ると、彼女はかっと顔を赤らめた。

「君は僕のこと、どう思ってる?」

 教えて。
 梢の葉ずれの音にも紛れて消えそうか、という乙骨の問いかけに、彼女はもごもごと口籠る。あ、とか、う、とか。答えにもなっていない発声に、乙骨は再度彼女の首筋に手をかけた。ぬったりと舐めた唇は、少しだけ土埃の苦い味がした。
 五条せんせが、見てる。
 そう言って彼女は乙骨の胸を押すが、服を掴む仕草はまるで甘えるようで、口元を甘く吸われることに抵抗は見られない。体操着のハーフパンツの端から覗く張りのある太ももと、その体操着に隠れて見えるか見えないかの位置にある、内ももの内出血の指の跡と。
 男の指ほどの間隔だ、と思った。それも背が高く体格のいい、手のひらの大きな男のものだろう。

――五条せんせって、昔から知ってるから、だから本当のお兄ちゃんみたいに思ってるんだぁ、内緒だよ。

 いつか五条と彼女の婚約について聞いたときの、彼女のはにかむような恥ずかしそうな笑顔を思い出す。はふはふ、と息を溢す彼女の口を吸い取って、声を吸い取って、どうか誰も呼ばないで。
 兄のようだ、と言った彼女の微笑みだけが今の乙骨にはよすが(・・・)だった。背後で草を踏む、足音がする。

by request, Thank you!
学生時代の乙パイセンはショジョチューだと信じてる派閥です。
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