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No.2

#名探偵コナン
沖田くん✖️同級生女子



 沖田君が髪を伸ばしている理由は知らないけれど、彼の髪が彼のまっさらな物言いと似て、芯があって強かな髪質であることは知っていた。

「なーあ、髪ゴムまた切れたわぁ」
「は、また?」

 放課後の教室に残って日誌を書いていた私に、そう声をかけてきたのは件の沖田君だ。部活中だったのだろう、白い剣道着を着た彼は頬に垂れる髪をかき上げながら、教室の入り口で笑っていた。私はえええ、と苦い声をあげて鞄のポーチから百均の髪ゴムを取り出す。

「悪いなぁ」
「そう言うなら髪ゴムくらい予備を持ってきなよ」

 いつもながら、悪いなんて全く思ってなさそうな言い振りだ。彼は差し出した髪ゴムを受け取ると、それを噛んで、後ろ手に髪をまとめ始めた。沖田君の節くれ立った指が不器用に動いて髪を纏めようとするが、ほつれて指先からすり抜けた髪が幾筋も首に落ちる。

「………………あかん」
「……もう、貸してよ」
「はは、悪ぃなぁ」

 やっぱり悪いなんで欠片も思ってなさそうな声で、沖田君は噛んでいた髪ゴムをこちらに戻す。慣れたそぶりで一つ前の席の椅子を引いて、そこに腰掛けた。

「どうも鏡がないと勝手が違ってなぁ」
「トイレとかでやりなよ」
「いやぁ、ははぁ。面倒やん」

 手櫛で硬質な彼の髪を梳かしていく。染めたことのない髪は手触りがよく、少しだけ石鹸の香りがする。彼の首筋に滲んだ薄い汗と、微かに震える私の指先。じゃれるような物言いに努めるけれど、胸の中では心臓が跳ねて、跳ねて、言うことを聞いてくれていない。
 そんな私の心のうちを知らず、沖田君は手櫛で髪をとかれながらじっと黒板の方を見ていた。

「なぁ。俺以外にこんなこと、しぃひんでよ」
「他に髪ゴムが切れたなんて言ってくる人、いないよ」

 反射的にじゃれ合いの延長で言い返してから、はっとして、髪を梳いていた指を少し止めた。まさか、そんな。
 じくじくと、心臓が痛い。指を止めた私を、沖田君が肩越しに振り返って見た。彼の目尻は少し赤かったけれど、私の顔はもっと赤かったと思う。

「言うて、髪ゴム切れたなんてこと、俺がわざわざ言いに来る相手なんか、あんたしかおらんのやけど」

 その意味、伝わるか?
 ずるい沖田君はそう言って、髪に触れたままの私の指を自分の指でそっと摘んだ。節くれ立った指先は少し荒れていて、皮膚はびっくりするほど熱かった。
 ねえそれ、好きですってことやん。言うてよ。
 そう言いたかったのにずるい沖田君は、うわぁ顔真っ赤やん、カワイぃなぁと鼻先で笑うので、私はもう、何も言えなくなってしまった。
 後日、剣道馬鹿の沖田君は寝起きに鏡なんて見たことないということを知って、私は再度赤面させられることになる。彼の髪の硬さとしなやかさを知っているのは、今のところ私のだけ、らしい。
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