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No.3

#呪術廻戦
宿儺✖️転生主 夢の中の逢瀬


 がじり、と歯先で噛まれた舌からは血が滲み、飲み下すことのできない唾液がつらつらと口の端から垂れていく。捉えられた舌は逃げ出すこともできず、目の前の大男は薄く涙を浮かべて痛みに喘ぐ私を、うっそりと笑った。
 痛いと言いたいのに、そんなことも許されない。結局私などという矮小な存在は、彼の一挙一動にすべてを支配されている。

「なんだ、なんぞ言いたそうな顔だな」
「そんなこと……」
「いいぞ、今は機嫌がいい。言ってみろ」

 目尻をにったりと下げて言う宿儺は、確かに機嫌がいいようだった。血の滲んだ舌は、少し喋るたびに刺すように痛む。痛覚が痺れて、息を吐き出しては刺激を堪える私の様を、宿儺は愉快そうに見た。喉から鼻先へ抜けていくような血錆の香りに、痛みとはこんなものであったか、と記憶の底を手繰る。

「……いつか死んだときも、そうしてくれればよかった」

 ようよう吐き出した言葉に、宿儺は少し眉を持ち上げる。いつか死んだときから百年二百年と経ち続けて、宿儺は私を痛めつけることだけを繰り返す。いつかの宿儺が南へ向かったまま今へと越えてくることだけじゃなくて、そこに私を連れて行ってくれればよかったのに。
 噛まれた舌から刺すように、鮮血が滲む。「今の私」に入り込んで、児戯のように痛めつけてみせるなら、「いつか死んだ私」を捕まえていて、殺し尽くしておいてほしかった。「今の私」をつかんで戯れみたいに魂を縛る宿儺に、「いつか死んだ私」が悋気を起こして憎しみを吐く。

「痛めつけるが、殺す気はない」

 そう言った宿儺は、嬉しそうだった。
 一人で来世()へ行ってしまった私は、いつか死ぬ前に置いていかれた憎しみに泣いて叫んだ私より、幾らも、新しくなってしまった。宿儺が無理やりにでも私の魂を縛って痛みだけを与えるその理由を、私は執着と解釈することは許されるだろうか。
 
 小さな電子音のアラームが、宿儺との淡い逢瀬を切り裂いて、晴れた朝を突きつける。薄いカーテンの隙間から覗く朝日は白い。べったりとした宿儺の夢とは、まるで真反対だった。
 夢の中だから、夢の中だからこそ。血錆の味はもう口内に残っていなくて、宿儺は結局私に何も残してくれない。夢の残滓の感情だけが鮮明で、モノも体も傷も痛みも、何一つ残りはしないのだ。

「殺す気がないなら、呼ばないでよ」

 最低な気分だった。いつか死ぬ前に愛していた男に毒付こうが、彼に聞こえるはずもない。もし宿儺が私に執着を残したというなら、きっと、私のこの愚かさこそを、愉悦と思っていたのだろう。
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