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No.6

#呪術廻戦
夏油傑✖️後輩女子


 終末論に興味があるかと聞いたときの少し間の抜けた顔や、どんな映画でも泣きどころで衒いなく泣いて見せるところ。人間の心には必ずどこかに光があり、きっと悪業には理由が、不運や不幸な運命には報いや救済があると信じているところが、どうしても嫌いだった。
 美々子と菜々子を地方の小さな遊園地へ連れていったのは、そこであれば知己に会うこともないだろうという、怠慢であった。平日で人気もまばらな敷地の中で、風船を手渡してきたウサギの着ぐるみは、少し迷うような素振りを見せた後に、頭の被り物を脱いだ。

「……あの。お久しぶり、です」
「…………やあ」

 呪専での一個下の学年の少女は、卒業の年度を越えて数年経っても記憶の中とあまり差異がなかった。夏油はぼんやりと彼女を見た。風船を持って駆け回る美々子と菜々子の、きゃらきゃらと笑う声がする。彼女はハッとした様子で、慌ててウサギの頭を被り直した。子どもに着ぐるみの中身が見えてはいけないと思ったのだろう。

「元気だった? 聞くのもおかしいけど」
「あ、はい。元気です。私も……、みんなも」

 美々子と菜々子を視界に入れながら、近くのベンチに腰掛ける。あの子達はよくできた子たちだから、勝手に遠くへ行ってしまうことはあまりない。ベンチの隣をポンポンと叩くと、ウサギの着ぐるみは少し迷う素振りをしてから、大人しくそこに座った。

「あの。夏油先輩は、」
「戻らないよ」

 先んじて言えば、その先の台詞を無くした彼女は「あ、」と小さな声を上げて押し黙った。ぎゅう、と着ぐるみの中で手のひらを握っているのがわかる。きっと補助監督の仕事でここにいるのだろう。呪力の強くない彼女は、初めから術師ではなく補助監督志望だった。たった数件の、彼女と二人で担当した任務のことを思い出す。善性に塗れた過去の自分は、彼女に危害のないように、心を配ったと思う。

「先輩は……、あの、先輩がいなくて皆寂しくて、五条先輩も、」
「うん」
「五条先輩もすごく辛そうで、あの、先輩、お願いします、戻って……」
「戻る訳ないだろ」

 ぴしゃりと言いつけた物言いに、ひくっとウサギの中から息を吸い込む声が聞こえる。被り物の頭を掴んで、それを持ち上げると蒼白な顔の彼女は、震えた目をして夏油を見上げていた。いつの間にか美々子と菜々子のきゃらきゃらとした笑い声は止んで、二人は立ち止まって夏油と彼女を見ている。

「この世には、どうにも儘ならないことがある。君にも理解できた?」

 嫌いだった。
 善性に塗れて、努力には報いがあり不幸には後の幸福があり、悪業には理由がある。それを甘く信じていた彼女と、そして過去の自分自身と。
 片手で掴めるほどの首筋を掴んで、肌は柔くて。殺すことは簡単で殺す理由もあった。それでも力を込めると祈るように彼女は瞼を閉じるので、理由がほしくなってしまうのだ。殺さない理由も殺すことが難しい理由も。

「だって儘らなくても、こうやって生きていくしか。仕方ないじゃないですか」
「だから嫌いだ、……君なんか」

 それでも他でもなく彼女自身が、夏油の欲したその理由をぶち壊すのだ。絞り出した声は、泣き声みたいだった。
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