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#名探偵コナン
諸伏高明(?)✖️弟の友達 その③


 近所に住んでいた少女と、東都で再会したのは全くの偶然だった。
 警察学校に在籍していたころに、近所の公園でキャッチボールをしていたら泣いている子どもたちと行き当たったことがある。どうしたのかと思い話を聞けば、近所の大学生とかくれんぼをしていたが、全く見つからず困っているらしい。その大学生は隠れることが得意で、いつもは見つからなくても呼べばどこかから出てきてくれるのに、今日は出てきてくれない。そう言って泣く子どもたちを宥め、何となくどこかで聞いたことのある話だと思った。
 結果として、その『大学生』は公園の植栽の奥で、膝を抱えて寝ていた。幼い頃の記憶が、ありありと蘇る。あのときも彼女はかくれんぼをして見つけられず、夜遅くまで植栽の中に隠れていた。

「……え?! 君って……」
「…………ん、ひろみつ、君……?」

 驚きで素っ頓狂な声を上げた景光に、寝ていた彼女はぼんやりと目を開けて、景光を呼んだ。年に数度、長野へ帰省したときに彼女の顔を見ることもあった。それでも、東都のこんな場所に彼女がいるとは思ってもみなかった。

「え、なんでこんなところに……?」
「ん、会社の研修で本社に……、ひろみつ君は?」
「俺は警察学校に、今、通ってて」
「そっかぁ、警察官になるんだ」

 景光の話を聞いた彼女は、嬉しそうにふにゃ、と笑った。

「昔もこうやって見つけに来てくれたものね。あのときのひろみつ君はヒーローみたいだったから、本当に正義のヒーローになっちゃうんだね。すごいね」

 照れもせず恥ずかし気もなくそんなことをいう彼女に、景光のほうが赤面をして俯いた。ややあって遠くから自分を呼ぶ降谷の声がして、慌てて彼女を見れば、もう寝ていた。起きない彼女を抱えて植栽から這いずって出たのも、今ではいい思い出だ。



 兄の車のナンバーは、特徴的だ。
 長野へ戻ってきたのは、会うことはできなくても少しだけでも兄に顔を見て、そして両親の墓参りができれば、と思ったからだ。両親の墓は兄が世話を欠かしていないようできれいに掃除が行き届いており、身につまされるような申し訳のない気持ちになった。
 兄のマンションにはまだ車が戻っておらず、昔住んでいた家や公園をぶらぶらと見ながら、昔、近所に住んでいた女の子を探したときのことを思い出す。自然と足が向いたのは、その彼女の自宅方面だった。
 
 兄の車のナンバーは、特徴的だ。彼女の自宅の側まで走ってきたその車を見て、すぐに兄だとわかった。
 木の陰に隠れながら車内で親しそうに会話をする二人を盗み見て、あの二人に面識はあっただろうか、と驚きと衝撃で霞む思考の奥で考えた。いや、なかっただろう。あればあんなにも素直で何を考えているのかすぐにわかる彼女が、お兄さんに会ったよ、と景光に話さないはずがない。
 だから兄と彼女に面識ができたのは、景光が二人と連絡を取ることができなくなってからだ。
 何事かを言った兄に、彼女が子犬のようにしょげて頭を垂れる。兄はそんな彼女を見て、仕方がない、とでも言うようにその頭を撫でた。兄はとても面倒見がよく、景光もいつもああして撫でられていた。兄の目は、幼い景光を見ていたときと同じものだった。
 
 喉の奥が熱かった。ぐっと唾を飲み下そうにも、喉がからからに乾いている。喘ぐように、胸の奥が痛かった。自分はこんな木陰に隠れて二人を見ていて、その二人は親しそうに笑っている。紛うことなく、それは嫉妬の感情であった。
 ややあって、兄は撫でていた手のひらを慌てて引き、恐らく謝罪したのだろう。それを聞いた彼女は大きく首を振り、もっと撫でてくれていいとでもいうように、自身の頭をぽんぽんと叩く。彼女の明るい声音が、少しだけ車外に漏れてきていた。

「俺、何、してんだろ……」

 ぽつりと呟く。本当に、何をしているのだろう、自分は。
 兄と彼女と、二人の前に姿を現すこともできず、両親の墓守りも何もかもを兄に押し付けて、彼女が笑って言った「正義のヒーロー」にあるまじき行いを、続けている。
 彼女の言葉に思わず緩んだような兄の微笑みを見て、景光は耐えきれず二人に背を向けた。夜明けには東都へ戻らなければいけない。「警察官の職務」として与えられた、あの組織の「スコッチ」という役割に戻らなければいけない。

『本当に正義のヒーローになっちゃうんだね。すごいね』

 耳の奥でいつかのあの日の、無垢な彼女の称賛が木霊する。すごくなんかない、俺じゃない。あのとき彼女を見つけたのだって、本当は兄だった。だからきっと彼女のヒーローは、俺じゃない。それでも、その言葉に縋って続けてきたのだ。だから、盗らないでほしかった。
 彼女の初恋を、自分を彼女のヒーローのままでいさせてほしかった。


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2045文字,

#名探偵コナン
諸伏高明✖️弟の友達 その②


 同僚から元彼からのストーカー被害に悩んでいて、家族からは警察へ相談へ行けと何度も言われているけれど、警察へ行くのも怖くて迷っている、と聞かされたときに、まず頭に浮かんだのはコウメイさんのことだった。

 コウメイさんは近所に住んでいた友達のお兄さんで、先日道端でばったりと出くわした。というか、私がその友達と勘違いして話しかけてしまったのだ。なんやかやと連絡先を交換して、時折ご飯を食べに行ったり行楽に行く関係が続いている。彼も私も恋人がおらず趣味が似ているので、いい友人関係なのだ。
 少し悩んでから同僚に「刑事さんの知り合いがいるので、相談に乗ってくれないか聞いてみる」と言ってから、コウメイさんは何とその日中に会う段取りを付けてくれた。そしてその三時間後には、なぜか私はコウメイさんの勤務する県警本部にいた。
 コウメイさんに話を聞いてもらい、コウメイさんも付き添ってくれると言うのでとりあえずこれから最寄りの警察署へ行こうとしていたときに、件のストーカー、つまり同僚の元彼が「男と会っている!!」と激高して襲ってきたのだ。展開が早すぎる。
 まあそのストーカーの元彼がコウメイさんのような人に適うはずもなく、私と同僚を尾けていた不審者に気づいたコウメイさんが、早々に呼んでいた応援の刑事さんに取り押さえられて、お縄になった。そのまま調書を作ると同僚と共に県警に連れてこられたというわけだ。

「先ほどのような、ああいう行いは感心しませんね」

 コウメイさんがそう切り出したのは、彼の車の中でのことだった。夜も遅いし送ると言われたので、ありがたく彼の車に乗り込んだのだ。コウメイさんはハンドルを握りながら、じっと信号を見ている。

「『ああいう』とは……?」
「あなた、先ほどの男が襲ってきたときに同僚の女性を庇って、前に出たでしょう」

 コウメイさんに自宅まで送ってもらうのは、これが初めてのことではない。彼は勝手知ったるように私の家まで車を走らせていく。

「ああ。あの人が彼女を狙っているのはわかっていましたし」
「そういった自己犠牲的な行いは、すべきではありません」
「でも、何もせず目の前で人が刺されるほうが、後で後悔しませんか?」

 そう言えば、コウメイさんは深々と溜息を吐いた。いつの間にか自宅のマンションの前に到着していて、私はコウメイさんに今日のお礼を言おうと、彼を見る。するとコウメイさんも、私のほうを見ていた。

「…………心配になるので、やめてくれませんか?」

 小さな子どもに言い聞かせるようなコウメイさんの物言いに、私はぐっと言葉に詰まる。幼少期にも世話になったことがある人というのは、ずるいのだ。都合のいいときばかり、こちらを子ども扱いして優しくして、言い聞かせようとしてくる。コウメイさんみたいに。

「……気を付けます」
「素直でよろしい」

 コウメイさんはふっと笑い声を溢して、しおしおと項垂れた私の頭を軽く撫でた。私には兄弟はいないが、兄がいたらこんな感じなんだろうか。大きな手のひらが少しくすぐったい気持ちで彼を見れば、目が合ったコウメイさんは「しまった」と我に返った顔をして、さっと手を引いた。

「申し訳ありません。セクハラでした」
「……は、……え!!? いえ気にしてません!! なんならもう百回ぐらい撫でていただいてもいいです! 私のことは犬か猫だと思って!! さあ! どうぞ!!」
「……あの、あなたも妙齢の女性なのですから。『自分を犬猫だと思え』は、どうかと思いますよ」

 そう言って窘める顔のコウメイさんは、それから堪えきれないとばかりに少し笑った。だから、私も嬉しくて笑ってしまった。
 笑ったその顔は今も、おもかげの中のひろみつ君と、そっくりだったのだ。


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1629文字,

#名探偵コナン
諸伏高明✖️弟の友達 その①


 ひろみつ君、と思わず声をかけたのは、記憶の中にあるひろみつ君と背中の骨の形がよく似ていたからだ。小学校の同級生だったひろみつ君は東都へ引っ越ししてしまったけど、夏休みや冬休みには長野へ戻ってきていて、そのときに数度会った。年によくて一回会う程度の彼は、他の同級生よりも成長の具合がわかりやすかった。だって年に一回会えるか会えないか、だったから。
 だから、駅の近くでひろみつ君に似たスーツの背中を見たときに「前に見たときと似たひろみつ君だ」と思ったのは、私の中では道理だった。けれど振り向いたその人は、ひろみつ君ではなくてもっと年上の男の人だった。

「景光は私の弟ですが……」

 暗にあなたは?と聞かれて、慌ててひろみつ君の同級生なのだ、と答える。彼はそうですか、と綻ぶように言って、少し考える素振りをしてから時間があるならお茶でもどうか、と言われた。最近会っていないので友人からの景光の話が聞きたいと彼は言い、大して話せる話があるわけではないが、お兄さんからひろみつ君の話が聞いてみたいのは、私も同じだった。
 
 ひろみつ君は、私の初恋だった。
 みんなでかくれんぼをしていたときに、私だけ見つけてもらえなかったことが一度あった。見つけてもらえるのを待っているうちにいつ間にか日が暮れて、暗くて怖くて、動けなくなってしまった。そんなときに見つけてくれたのがひろみつ君だった。

「ああ、あの時の子はあなたですか」

 腰を落ち着けた喫茶店でその話をしたら、お兄さんは心当たりがあるようだった。

「景光と一緒に遊んでいた女の子が日が暮れても帰って来ないと言うので、景光と探しに行ったことがあります。
 その子はいつも隠れるのが上手で、景光に聞くと思ってもみないところ、鬼の後ろをついて回ったり一度探した場所に隠れ直したりと、人の死角を取るのが上手いようでした。確かあの時は植栽の中に入り込んで、怖くて身動きができなくなっていたんでしたね」

 過去の自分のやらかしを他人に覚えられているというのは、恥ずかしいものだ。お兄さんの言う通りで、私は公園の植栽の奥に入り込んだはいいものの、あろうことかそこで寝てしまい、気がついたら周りは真っ暗だった。友達は、私を呼んでも返事がないので家に帰ったと思っていたらしい。

「植栽の枝が少し折れているの見つけて、景光に頼んで奥を見てもらったら本当に女の子が中にいたので、あの時は驚きました」
「う"ぅ……、その節は大変ご迷惑を…………」
「いえ、探したときは8歳とはいえ女の子が本当にこんなところに隠れるものか、と思ったのですが、景光は『あの子は見つからないなら、絶対隠れる』というもので。
 私も感心した覚えがあります」
「恥ずかしい…………」

 思わず顔を覆うと、お兄さんは微笑ましいものを見る目で私を見た。赤くなった頬と耳をパタパタと扇いでから、そういえば、と思った。

「だけど、見つけてくれたのがひろみつ君のお兄さんの二人なら。
 私の初恋はひろみつ君ともう一人、お兄さんってことになるんですね」

 あの時、見つけてもらったときの記憶は大泣きしたせいで曖昧だが、後からひろみつ君が見つけてくれたと聞いて、それからひろみつ君がヒーローみたいに思えたのだ。それが初恋の始まりだった。
 だから見つけてくれたのがお兄さんもなら、ヒーローはひろみつ君とお兄さんの二人になる。
 そう何気なく言えば、お兄さんは少し虚をつかれたような顔をしてから「なるほど」と、目尻を下げて笑った。

「なるほど。あなたのような可愛い人に『あなたが初恋だ』と言われるのは、確かに存外気分がいいものですね」
「あ、……え?! そういう意味ではなく!」
「そうですか? 私としては、それが天長地久であってもいいと、思いますよ」
「は、……は? え!?」
「そろそろ行きましょうか」

 お兄さんは含み笑いをしながら伝票を取り、席を立った。どういう意味なのか聞いても教えてはくれず、「どうしてもわからなければ連絡下さい」と連絡先を書いた名刺を渡される。数日唸りながら言われた内容を考えてみたが全くわからず、名刺の連絡先に「わかりません」と泣きつきのメッセージを送った私に、お兄さんはこう返してきた。

『天長地久 天地が永遠につきないように、物事がいつまでも変わることなくあることの例え』

 返信を見て、頭の中がじわじわと冴えていく。つまりお兄さんは「今も初恋が続いていてもいい」と言ったということか? それは一体どういう意図で……と困惑しながら思っていたところに、追加で返信がきた。冗談ですよ、の一言にほっと安堵の息を吐いたのもつかの間、続いた文言に私は再度唸ることになった。

『冗談ですよ。ところで折角連絡を下さったのですから、食事でも。
 いかがですか?』



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2060文字,

#名探偵コナン
諸伏高明✖️部下 ⚠️エロはないけど下ネタ
えっコウメイさんが私の裏垢のフォロワーになるって言うんですか⁈


 徹夜を覚悟した夜中の午前三時、捜一のフロアには私しかいなかった。ぼやぼやとエナドリを啜りながらPCを叩いていたが、ふと「今だ」というよからぬ閃きが、脳裏をF1カー並みの爆速で走り抜けた。
 一階に夜勤詰めをしている警官と、警備員はいるがまだ巡回の時間ではない。私はそそくさと、オフィス内でもあまり特徴のなさそうな壁の隅に立った。あまり多くの情報は映らないように、そしてここがオフィスだということはわかるように。スマホのインカメで窓の閉じたブラインドとデスクの端、そして大半が自分自身の体となるように調整し、ここだという位置を決める。撮る構図が決まると、ひとつ大きく息を吐いてから、着ていたジャケットのボタンを外し、ブラウスをインナーごと、ぐいっと下から持ち上げた。巨乳というほどではないが、そこそこに質量のある物体がブラジャーに持ち上げられて、谷間を作っている。その状態でスマホの撮影ボタンを押した瞬間、オフィスのドアが開いた。

「お疲れ様です、まだ残って…………」
「あ」

 目を丸くしたコウメイさんなど、なかなか見れるものではない。呆けた私はスマホを落としたが、コウメイさんは持っていた差し入れのコンビニ袋を落とさなかった。さすがである。



 誓って言うが、お金が目当てでしていたわけではない。ただ仕事が忙しくて「そういう」関係も「そういう」行為もほとほとご無沙汰であったし、激務とトレーニングのせいで無駄に引き締まった体と、そこそこに出ている乳房は、自分の目から見ても「よきもの」に見えたのだ。
 ふと思い立って写真に撮ってみたら更に「よき」だった。ベネ。だからそれが嬉しくて匿名で作ったSNSに投稿してみた。めちゃくちゃえっっっっちじゃん。。。。と褒められた。私もそう思うだよねベネベネ。などと思っていたら写真を撮るのも投稿するのも楽しくなってしまった。そういう顛末である。

「わかりました。まずアカウントを消しましょう」
「えっ」
「『えっ』とは?」

 しらじらとした目を諸伏さんが私に向ける。その目線の鋭さに押されて、私はしおしおと俯いた。諸伏さんに今更諭されなくても、この行為が危険なことは承知している。それでもSNSという実体のない中でも、他人に手放しに褒められてちやほやされることに、心を慰められていた。

「……例えば先ほどあなたが撮ったこの写真」

 そんな私の様子を見て溜息を落とした諸伏さんが、机の上に置かれた私のスマホをすいすいと操作して、話し始める。先ほど取った写真もたわわに胸がぎゅっと強調されて、大変「良き」な写真であった。諸伏さんは一瞬だけ動きを止めてから、その写真をピンチインしてブラインドを拡大する。

「このブラインドですが、素材の透過具合と劣化具合から、作られたメーカーと製造年度がおおよそわかります」
「えっコワっ」
「………… わかります。それがわかれば、そのメーカーがブラインドを卸したオフィスを探すこともできる。
 更にこちらの写り込んだ机には、コーヒーの染みがありますね。拭き取られておらず長く汚れたままの状態であることから、掃除の頻度は高くなく、それを気にするようなまめまめしい人間は少ないことが推察できる。
 恐らくだが職場には男性が多く、この写真を撮った人物はかなり硬めのオフィスファッションをしており、かつ、そこそこの激務をこなしている。そしてブラインドから、おおよその納入先が絞り込めれば。
 ……わかりますね」

 さすが諸伏さんとしか言いようのない推理と言いぶりに、私は更にしおしお俯いた。「はい……」とか細く頷いてみたが、納得はしていなかった。それを見てとったのだろう。諸伏さんは「本当にやめる気ありますか?」と重ねて怖い声で聞いてきた。バレている。

「リスク判断ができないほど愚かではないでしょう。何をこんなものにそこまでこだわっているんですか」
「だって……仕事が辛くてもう駄目だって時に、この自撮りだけは絶対に褒めてくれる人がいるんです。それに慰められた私の心だけは、絶対に嘘じゃないんです。あの気持ちが嘘なら、慰めなんてこの世に存在しない」

 言い切ると、諸伏さんは大きく溜息を落とし、額に手を当てた。わかっている、こんなことは職業倫理に反していて、職場のオフィスで写真を撮ったことが公になれば良くて減俸、悪ければ懲戒免職だ。それでもまだ、オフィスの写真は上げていないし今だけ諸伏さんが黙っていてくれれば、という淡い期待が捨てられない。

「……君の気持ちは、わかりました」

 ややあって、絞り出すように諸伏さんが吐き出した。額に手を当てたまま、目元が隠れて表情が読み取れない。

「とりあえずそのアカウントは消してください」
「だから……」
「そして新しくアカウントを取り直して、限定公開にしてください。それなら目を瞑りましょう」
「でもそれじゃ、誰も私を褒めてくれません」
「私が一人だけ、フォロワーになります。いいねもコメントもします。それでいいでしょう」
「………………は?」
「褒められたいんでしょう?」

 手のひらで口元を隠した諸伏さんは、じっとこちらを見る。大きな手のひらだった。指は私よりも太く、少し節くれ立っている。この人も男だったのだ、と今更な馬鹿げたことを思った。

「褒めてあげますよ。
 私の語彙の限りを尽くして君が満足するような、コメントを書いてあげます」

 鋭く怜悧な目で見られて、いいですね、と畳みかけられる。頷かざる得なかったのはお察しだけど、まるで意識していなかった上司が急に男を香らせてきたことに興奮しなかったと言えば、それは多分嘘になる。
 こうして私と諸伏さんの、秘密の裏垢相互フォローが始まったのだった。

by request, Thank you!
続きます


全然1000字で終わらなかった😂ので、もうちょっと真面目に書きます。
リクエストいただいたのは『諸伏高明と部下の恋人』でしたが、すみませんこの後恋人になるということで何卒……🙏😭
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2562文字,

#名探偵コナン
沖田くん✖️同級生女子



 沖田君が髪を伸ばしている理由は知らないけれど、彼の髪が彼のまっさらな物言いと似て、芯があって強かな髪質であることは知っていた。

「なーあ、髪ゴムまた切れたわぁ」
「は、また?」

 放課後の教室に残って日誌を書いていた私に、そう声をかけてきたのは件の沖田君だ。部活中だったのだろう、白い剣道着を着た彼は頬に垂れる髪をかき上げながら、教室の入り口で笑っていた。私はえええ、と苦い声をあげて鞄のポーチから百均の髪ゴムを取り出す。

「悪いなぁ」
「そう言うなら髪ゴムくらい予備を持ってきなよ」

 いつもながら、悪いなんて全く思ってなさそうな言い振りだ。彼は差し出した髪ゴムを受け取ると、それを噛んで、後ろ手に髪をまとめ始めた。沖田君の節くれ立った指が不器用に動いて髪を纏めようとするが、ほつれて指先からすり抜けた髪が幾筋も首に落ちる。

「………………あかん」
「……もう、貸してよ」
「はは、悪ぃなぁ」

 やっぱり悪いなんで欠片も思ってなさそうな声で、沖田君は噛んでいた髪ゴムをこちらに戻す。慣れたそぶりで一つ前の席の椅子を引いて、そこに腰掛けた。

「どうも鏡がないと勝手が違ってなぁ」
「トイレとかでやりなよ」
「いやぁ、ははぁ。面倒やん」

 手櫛で硬質な彼の髪を梳かしていく。染めたことのない髪は手触りがよく、少しだけ石鹸の香りがする。彼の首筋に滲んだ薄い汗と、微かに震える私の指先。じゃれるような物言いに努めるけれど、胸の中では心臓が跳ねて、跳ねて、言うことを聞いてくれていない。
 そんな私の心のうちを知らず、沖田君は手櫛で髪をとかれながらじっと黒板の方を見ていた。

「なぁ。俺以外にこんなこと、しぃひんでよ」
「他に髪ゴムが切れたなんて言ってくる人、いないよ」

 反射的にじゃれ合いの延長で言い返してから、はっとして、髪を梳いていた指を少し止めた。まさか、そんな。
 じくじくと、心臓が痛い。指を止めた私を、沖田君が肩越しに振り返って見た。彼の目尻は少し赤かったけれど、私の顔はもっと赤かったと思う。

「言うて、髪ゴム切れたなんてこと、俺がわざわざ言いに来る相手なんか、あんたしかおらんのやけど」

 その意味、伝わるか?
 ずるい沖田君はそう言って、髪に触れたままの私の指を自分の指でそっと摘んだ。節くれ立った指先は少し荒れていて、皮膚はびっくりするほど熱かった。
 ねえそれ、好きですってことやん。言うてよ。
 そう言いたかったのにずるい沖田君は、うわぁ顔真っ赤やん、カワイぃなぁと鼻先で笑うので、私はもう、何も言えなくなってしまった。
 後日、剣道馬鹿の沖田君は寝起きに鏡なんて見たことないということを知って、私は再度赤面させられることになる。彼の髪の硬さとしなやかさを知っているのは、今のところ私のだけ、らしい。
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