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No.11

#名探偵コナン
諸伏高明(?)✖️弟の友達 その③


 近所に住んでいた少女と、東都で再会したのは全くの偶然だった。
 警察学校に在籍していたころに、近所の公園でキャッチボールをしていたら泣いている子どもたちと行き当たったことがある。どうしたのかと思い話を聞けば、近所の大学生とかくれんぼをしていたが、全く見つからず困っているらしい。その大学生は隠れることが得意で、いつもは見つからなくても呼べばどこかから出てきてくれるのに、今日は出てきてくれない。そう言って泣く子どもたちを宥め、何となくどこかで聞いたことのある話だと思った。
 結果として、その『大学生』は公園の植栽の奥で、膝を抱えて寝ていた。幼い頃の記憶が、ありありと蘇る。あのときも彼女はかくれんぼをして見つけられず、夜遅くまで植栽の中に隠れていた。

「……え?! 君って……」
「…………ん、ひろみつ、君……?」

 驚きで素っ頓狂な声を上げた景光に、寝ていた彼女はぼんやりと目を開けて、景光を呼んだ。年に数度、長野へ帰省したときに彼女の顔を見ることもあった。それでも、東都のこんな場所に彼女がいるとは思ってもみなかった。

「え、なんでこんなところに……?」
「ん、会社の研修で本社に……、ひろみつ君は?」
「俺は警察学校に、今、通ってて」
「そっかぁ、警察官になるんだ」

 景光の話を聞いた彼女は、嬉しそうにふにゃ、と笑った。

「昔もこうやって見つけに来てくれたものね。あのときのひろみつ君はヒーローみたいだったから、本当に正義のヒーローになっちゃうんだね。すごいね」

 照れもせず恥ずかし気もなくそんなことをいう彼女に、景光のほうが赤面をして俯いた。ややあって遠くから自分を呼ぶ降谷の声がして、慌てて彼女を見れば、もう寝ていた。起きない彼女を抱えて植栽から這いずって出たのも、今ではいい思い出だ。



 兄の車のナンバーは、特徴的だ。
 長野へ戻ってきたのは、会うことはできなくても少しだけでも兄に顔を見て、そして両親の墓参りができれば、と思ったからだ。両親の墓は兄が世話を欠かしていないようできれいに掃除が行き届いており、身につまされるような申し訳のない気持ちになった。
 兄のマンションにはまだ車が戻っておらず、昔住んでいた家や公園をぶらぶらと見ながら、昔、近所に住んでいた女の子を探したときのことを思い出す。自然と足が向いたのは、その彼女の自宅方面だった。
 
 兄の車のナンバーは、特徴的だ。彼女の自宅の側まで走ってきたその車を見て、すぐに兄だとわかった。
 木の陰に隠れながら車内で親しそうに会話をする二人を盗み見て、あの二人に面識はあっただろうか、と驚きと衝撃で霞む思考の奥で考えた。いや、なかっただろう。あればあんなにも素直で何を考えているのかすぐにわかる彼女が、お兄さんに会ったよ、と景光に話さないはずがない。
 だから兄と彼女に面識ができたのは、景光が二人と連絡を取ることができなくなってからだ。
 何事かを言った兄に、彼女が子犬のようにしょげて頭を垂れる。兄はそんな彼女を見て、仕方がない、とでも言うようにその頭を撫でた。兄はとても面倒見がよく、景光もいつもああして撫でられていた。兄の目は、幼い景光を見ていたときと同じものだった。
 
 喉の奥が熱かった。ぐっと唾を飲み下そうにも、喉がからからに乾いている。喘ぐように、胸の奥が痛かった。自分はこんな木陰に隠れて二人を見ていて、その二人は親しそうに笑っている。紛うことなく、それは嫉妬の感情であった。
 ややあって、兄は撫でていた手のひらを慌てて引き、恐らく謝罪したのだろう。それを聞いた彼女は大きく首を振り、もっと撫でてくれていいとでもいうように、自身の頭をぽんぽんと叩く。彼女の明るい声音が、少しだけ車外に漏れてきていた。

「俺、何、してんだろ……」

 ぽつりと呟く。本当に、何をしているのだろう、自分は。
 兄と彼女と、二人の前に姿を現すこともできず、両親の墓守りも何もかもを兄に押し付けて、彼女が笑って言った「正義のヒーロー」にあるまじき行いを、続けている。
 彼女の言葉に思わず緩んだような兄の微笑みを見て、景光は耐えきれず二人に背を向けた。夜明けには東都へ戻らなければいけない。「警察官の職務」として与えられた、あの組織の「スコッチ」という役割に戻らなければいけない。

『本当に正義のヒーローになっちゃうんだね。すごいね』

 耳の奥でいつかのあの日の、無垢な彼女の称賛が木霊する。すごくなんかない、俺じゃない。あのとき彼女を見つけたのだって、本当は兄だった。だからきっと彼女のヒーローは、俺じゃない。それでも、その言葉に縋って続けてきたのだ。だから、盗らないでほしかった。
 彼女の初恋を、自分を彼女のヒーローのままでいさせてほしかった。


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