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No.9

#名探偵コナン
諸伏高明✖️弟の友達 その①


 ひろみつ君、と思わず声をかけたのは、記憶の中にあるひろみつ君と背中の骨の形がよく似ていたからだ。小学校の同級生だったひろみつ君は東都へ引っ越ししてしまったけど、夏休みや冬休みには長野へ戻ってきていて、そのときに数度会った。年によくて一回会う程度の彼は、他の同級生よりも成長の具合がわかりやすかった。だって年に一回会えるか会えないか、だったから。
 だから、駅の近くでひろみつ君に似たスーツの背中を見たときに「前に見たときと似たひろみつ君だ」と思ったのは、私の中では道理だった。けれど振り向いたその人は、ひろみつ君ではなくてもっと年上の男の人だった。

「景光は私の弟ですが……」

 暗にあなたは?と聞かれて、慌ててひろみつ君の同級生なのだ、と答える。彼はそうですか、と綻ぶように言って、少し考える素振りをしてから時間があるならお茶でもどうか、と言われた。最近会っていないので友人からの景光の話が聞きたいと彼は言い、大して話せる話があるわけではないが、お兄さんからひろみつ君の話が聞いてみたいのは、私も同じだった。
 
 ひろみつ君は、私の初恋だった。
 みんなでかくれんぼをしていたときに、私だけ見つけてもらえなかったことが一度あった。見つけてもらえるのを待っているうちにいつ間にか日が暮れて、暗くて怖くて、動けなくなってしまった。そんなときに見つけてくれたのがひろみつ君だった。

「ああ、あの時の子はあなたですか」

 腰を落ち着けた喫茶店でその話をしたら、お兄さんは心当たりがあるようだった。

「景光と一緒に遊んでいた女の子が日が暮れても帰って来ないと言うので、景光と探しに行ったことがあります。
 その子はいつも隠れるのが上手で、景光に聞くと思ってもみないところ、鬼の後ろをついて回ったり一度探した場所に隠れ直したりと、人の死角を取るのが上手いようでした。確かあの時は植栽の中に入り込んで、怖くて身動きができなくなっていたんでしたね」

 過去の自分のやらかしを他人に覚えられているというのは、恥ずかしいものだ。お兄さんの言う通りで、私は公園の植栽の奥に入り込んだはいいものの、あろうことかそこで寝てしまい、気がついたら周りは真っ暗だった。友達は、私を呼んでも返事がないので家に帰ったと思っていたらしい。

「植栽の枝が少し折れているの見つけて、景光に頼んで奥を見てもらったら本当に女の子が中にいたので、あの時は驚きました」
「う"ぅ……、その節は大変ご迷惑を…………」
「いえ、探したときは8歳とはいえ女の子が本当にこんなところに隠れるものか、と思ったのですが、景光は『あの子は見つからないなら、絶対隠れる』というもので。
 私も感心した覚えがあります」
「恥ずかしい…………」

 思わず顔を覆うと、お兄さんは微笑ましいものを見る目で私を見た。赤くなった頬と耳をパタパタと扇いでから、そういえば、と思った。

「だけど、見つけてくれたのがひろみつ君のお兄さんの二人なら。
 私の初恋はひろみつ君ともう一人、お兄さんってことになるんですね」

 あの時、見つけてもらったときの記憶は大泣きしたせいで曖昧だが、後からひろみつ君が見つけてくれたと聞いて、それからひろみつ君がヒーローみたいに思えたのだ。それが初恋の始まりだった。
 だから見つけてくれたのがお兄さんもなら、ヒーローはひろみつ君とお兄さんの二人になる。
 そう何気なく言えば、お兄さんは少し虚をつかれたような顔をしてから「なるほど」と、目尻を下げて笑った。

「なるほど。あなたのような可愛い人に『あなたが初恋だ』と言われるのは、確かに存外気分がいいものですね」
「あ、……え?! そういう意味ではなく!」
「そうですか? 私としては、それが天長地久であってもいいと、思いますよ」
「は、……は? え!?」
「そろそろ行きましょうか」

 お兄さんは含み笑いをしながら伝票を取り、席を立った。どういう意味なのか聞いても教えてはくれず、「どうしてもわからなければ連絡下さい」と連絡先を書いた名刺を渡される。数日唸りながら言われた内容を考えてみたが全くわからず、名刺の連絡先に「わかりません」と泣きつきのメッセージを送った私に、お兄さんはこう返してきた。

『天長地久 天地が永遠につきないように、物事がいつまでも変わることなくあることの例え』

 返信を見て、頭の中がじわじわと冴えていく。つまりお兄さんは「今も初恋が続いていてもいい」と言ったということか? それは一体どういう意図で……と困惑しながら思っていたところに、追加で返信がきた。冗談ですよ、の一言にほっと安堵の息を吐いたのもつかの間、続いた文言に私は再度唸ることになった。

『冗談ですよ。ところで折角連絡を下さったのですから、食事でも。
 いかがですか?』



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