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五条弾とくのたまちゃん
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概要
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No.29
#五条弾とくのたまちゃん
デフォ名垂れ流し
11. 夏休み前夜(風/理解者/不安)
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長いお休みの前は皆から、家に帰るの、という話を聞くたびに少しだけ胸の奥が痛くなる。学園には彼女以外にも、さまざまな理由から家に帰ることができない忍たまやくのたまがいたし、そういう子は大抵お休みの間、先生の家に身を寄せさせてもらう。
彼女だって今回も、シナ先生にご厄介になる予定をしていたが、休み前のとある授業後にそのシナ先生から呼び出しをされた。
「雑渡様のほうから、今回のお休みはタソガレドキの領へ来てはいかがか、と申し出が来ているのだけれど。
ミヨシちゃんはどうしたいかしら?」
聞かれて、思ってもみないことに彼女はぱちくりと目を瞬かせた。五条からの「嫁に来ませんか?」という申し出に彼女は頷いたし、「私、五条さんのことが好きみたいです」と顔を赤くしてお慕いの心を伝えたけれど、まさかそんなお誘いに発展するとは思ってもみず、彼女は小さくハワ…と息を吐いた。
「ど、どうしたら……」
「行きたくなかったらお断りしてもいいと思うけれど、どう?」
「行きたくないわけでは、ないんですけれど……、どうしたらいいかわからなくて」
少し俯きながら言った彼女に、シナは頷いた。
「そうね。
……あなたはタソガレドキに行った後、城主様の奥方様付になるということだから、その就職前の社会経験としていかが? ということらしいの。
私は、あなたが行ってもいいと思うなら、行ってみたらいいと思うけれど」
「……あの。少し、考えます」
彼女はシナ先生にそうお返事をして、先生のお部屋を辞した。
そうして五条さん、来てくれないかしら? と思っていたら、その五条さんが学園長先生にご用事があると言って忍んできたのはその日の日暮れ前で、日暮れ前と言っても夏の日は長いので、お夕飯にと皆で作ったお握りと冷や汁を、一人で縁側でぽつぽつと齧っているときのことだった。
休みの予定をどうするか、少し考えたかったので彼女一人で皆のところから抜けてきたのである。
「やぁ、こんばんは」
「あ、五条さん。こんばんは」
庭先から塀を越えてやってきた五条は、危なげもなく地面に着地して彼女を見つけて微笑む。五条は覆面を下ろして、縁側にちまっと座った彼女を見た。
「お休みの話、聞きましたか?」
「はい。あの、……私、お世話になってもいいんでしょうか?」
「私としては来てくださると、とても嬉しいです」
縁側でもちもちとお夕飯を食べていた彼女は、なんだが少し不安そうな顔つきだった。それもそうだろう。彼女の生い立ちを鑑みれば、彼女は生家だった城の中と、この学園と、学園からの演習くらいしか外に出たことがないはずである。
五条が今日来たのも、大川への書状を携えては来たのであるが、主目的は彼女に会って「良かったら来てね」の言葉を重ねるためである。タソガレドキには、彼女の存在を影ながら仄めかし、彼女の故郷である領地内で御家騒動と家臣による内紛を引き起こすという思惑と魂胆があるのだ。
「不安があれば、私もできる限り近くにいれるようにしますから」
「それは、嬉しいのですが……」
縁側に座った彼女の膝元に跪き、じっと彼女の顔を見上げる。彼女は五条の顔を見ると少しだけ頬を染めて、恥ずかしそうな顔をした。「好きみたいです」と彼女が言った通り、好いた男にそうして傅かれて言い寄られると、彼女は頬を染めて「…う、うに……」と小さく鳴く。それがどうにも可愛くて、愛しくて堪らなくて、五条はいつも彼女の顔をわざと覗き込んで、じっと目を見つめるのだ。
「……あの。私、何も考えずに五条さんのところへお嫁に行きたいと思って、言ってしまったんですが。
私がお嫁に行くことでご迷惑をおかけしていませんか……?」
「とんでもない」
五条は言いながら、なるべく真摯に見えるような表情を心掛けて、首を振った。
「私は城仕えですので、私があなたに嫁取りの打診をしたのも、組頭や殿からのお許しがあってからのことです。
あなたは我が領から、是非にと望まれているのです。どうか、怖がらないで」
実際は五条から打診したわけでなく、決定事項として「嫁に取りなさい」と言われたわけであるが、その辺りは特に伝えなくてもいい事柄である。とにかくタソガレドキとしては、彼女を領地内で保護しぬくぬくとしておきたい。攻略中の他領の末姫を、血筋を、旗印として手元に置いておきたいのが一番の目的なのである。
彼女は、そんな後ろ暗いことを考えながらも彼女をどうにか口説き落とそうと、彼女を見つめる五条を同じくジ…と見つめ返した。小動物じみて少し潤んだように見える瞳は、色味としてはそんなことはないはずなのに、なんだかとても透き通って見える。
五条は少しの間、彼女の目を見つめ返してから根負けしたように小さく息を吐いた。
「……来てほしいです。
奥方付になられるのですから四六時中というわけにはいかないですが、それでも学園にいるときよりも、たくさん、私はミヨシちゃんの顔が見れる。
少しでも暇をもらえたら、あなたとタソガレドキの市に出かけても楽しいかもしれないと思いますし、もう少し人目を気にせず、ゆっくり話ができるかもしれない。
時期的に間に合うかわかりませんが、山まで行けば一緒に蛍が見れるかも。
そうして、あなたを連れてあちこちに行ってみたいし、簡単に会える距離にあなたがいるかもと思うと、私はきっと嬉しいと思うんです。ミヨシちゃんは、どうですか……?」
「わ、私もたぶん、五条さんが近くにいるの、きっと嬉しいです……」
自分の足元に屈み込んで、訥々と話した五条に彼女は勢い込んで答えた。領から是非に、と言われているというのはよくわかっていなかったが、五条が、休みに彼女がタソガレドキに来たら一緒に何をしたいと思っているのか、それはよくわかった。
頷いた彼女に、五条が彼女を縋るように見ていた目線が少し和らぐ。
「じゃあ、お休みの間、タソガレドキの領に来てくださいますか……?」
「ご、ご迷惑じゃなければ……!
不束者ですが、よろしくお願いします……!」
そう言って彼女は、縁側に腰掛けたままで五条に向かって頭を下げた。彼女の言い振りに少し驚いてから、なんだかそれこそまるで嫁入りの文句みたいだな、と思って五条は少しだけ笑った。
夏が来てその次は、二人が待ち遠しくする秋の長休みがあるのだ。きっと二人であちこちに行こうね、と五条はへへ…とちいまく笑う、彼女のその笑顔を見て思っている。
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2737文字,
2025.07.10 22:10
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11. 夏休み前夜(風/理解者/不安)
長いお休みの前は皆から、家に帰るの、という話を聞くたびに少しだけ胸の奥が痛くなる。学園には彼女以外にも、さまざまな理由から家に帰ることができない忍たまやくのたまがいたし、そういう子は大抵お休みの間、先生の家に身を寄せさせてもらう。
彼女だって今回も、シナ先生にご厄介になる予定をしていたが、休み前のとある授業後にそのシナ先生から呼び出しをされた。
「雑渡様のほうから、今回のお休みはタソガレドキの領へ来てはいかがか、と申し出が来ているのだけれど。
ミヨシちゃんはどうしたいかしら?」
聞かれて、思ってもみないことに彼女はぱちくりと目を瞬かせた。五条からの「嫁に来ませんか?」という申し出に彼女は頷いたし、「私、五条さんのことが好きみたいです」と顔を赤くしてお慕いの心を伝えたけれど、まさかそんなお誘いに発展するとは思ってもみず、彼女は小さくハワ…と息を吐いた。
「ど、どうしたら……」
「行きたくなかったらお断りしてもいいと思うけれど、どう?」
「行きたくないわけでは、ないんですけれど……、どうしたらいいかわからなくて」
少し俯きながら言った彼女に、シナは頷いた。
「そうね。
……あなたはタソガレドキに行った後、城主様の奥方様付になるということだから、その就職前の社会経験としていかが? ということらしいの。
私は、あなたが行ってもいいと思うなら、行ってみたらいいと思うけれど」
「……あの。少し、考えます」
彼女はシナ先生にそうお返事をして、先生のお部屋を辞した。
そうして五条さん、来てくれないかしら? と思っていたら、その五条さんが学園長先生にご用事があると言って忍んできたのはその日の日暮れ前で、日暮れ前と言っても夏の日は長いので、お夕飯にと皆で作ったお握りと冷や汁を、一人で縁側でぽつぽつと齧っているときのことだった。
休みの予定をどうするか、少し考えたかったので彼女一人で皆のところから抜けてきたのである。
「やぁ、こんばんは」
「あ、五条さん。こんばんは」
庭先から塀を越えてやってきた五条は、危なげもなく地面に着地して彼女を見つけて微笑む。五条は覆面を下ろして、縁側にちまっと座った彼女を見た。
「お休みの話、聞きましたか?」
「はい。あの、……私、お世話になってもいいんでしょうか?」
「私としては来てくださると、とても嬉しいです」
縁側でもちもちとお夕飯を食べていた彼女は、なんだが少し不安そうな顔つきだった。それもそうだろう。彼女の生い立ちを鑑みれば、彼女は生家だった城の中と、この学園と、学園からの演習くらいしか外に出たことがないはずである。
五条が今日来たのも、大川への書状を携えては来たのであるが、主目的は彼女に会って「良かったら来てね」の言葉を重ねるためである。タソガレドキには、彼女の存在を影ながら仄めかし、彼女の故郷である領地内で御家騒動と家臣による内紛を引き起こすという思惑と魂胆があるのだ。
「不安があれば、私もできる限り近くにいれるようにしますから」
「それは、嬉しいのですが……」
縁側に座った彼女の膝元に跪き、じっと彼女の顔を見上げる。彼女は五条の顔を見ると少しだけ頬を染めて、恥ずかしそうな顔をした。「好きみたいです」と彼女が言った通り、好いた男にそうして傅かれて言い寄られると、彼女は頬を染めて「…う、うに……」と小さく鳴く。それがどうにも可愛くて、愛しくて堪らなくて、五条はいつも彼女の顔をわざと覗き込んで、じっと目を見つめるのだ。
「……あの。私、何も考えずに五条さんのところへお嫁に行きたいと思って、言ってしまったんですが。
私がお嫁に行くことでご迷惑をおかけしていませんか……?」
「とんでもない」
五条は言いながら、なるべく真摯に見えるような表情を心掛けて、首を振った。
「私は城仕えですので、私があなたに嫁取りの打診をしたのも、組頭や殿からのお許しがあってからのことです。
あなたは我が領から、是非にと望まれているのです。どうか、怖がらないで」
実際は五条から打診したわけでなく、決定事項として「嫁に取りなさい」と言われたわけであるが、その辺りは特に伝えなくてもいい事柄である。とにかくタソガレドキとしては、彼女を領地内で保護しぬくぬくとしておきたい。攻略中の他領の末姫を、血筋を、旗印として手元に置いておきたいのが一番の目的なのである。
彼女は、そんな後ろ暗いことを考えながらも彼女をどうにか口説き落とそうと、彼女を見つめる五条を同じくジ…と見つめ返した。小動物じみて少し潤んだように見える瞳は、色味としてはそんなことはないはずなのに、なんだかとても透き通って見える。
五条は少しの間、彼女の目を見つめ返してから根負けしたように小さく息を吐いた。
「……来てほしいです。
奥方付になられるのですから四六時中というわけにはいかないですが、それでも学園にいるときよりも、たくさん、私はミヨシちゃんの顔が見れる。
少しでも暇をもらえたら、あなたとタソガレドキの市に出かけても楽しいかもしれないと思いますし、もう少し人目を気にせず、ゆっくり話ができるかもしれない。
時期的に間に合うかわかりませんが、山まで行けば一緒に蛍が見れるかも。
そうして、あなたを連れてあちこちに行ってみたいし、簡単に会える距離にあなたがいるかもと思うと、私はきっと嬉しいと思うんです。ミヨシちゃんは、どうですか……?」
「わ、私もたぶん、五条さんが近くにいるの、きっと嬉しいです……」
自分の足元に屈み込んで、訥々と話した五条に彼女は勢い込んで答えた。領から是非に、と言われているというのはよくわかっていなかったが、五条が、休みに彼女がタソガレドキに来たら一緒に何をしたいと思っているのか、それはよくわかった。
頷いた彼女に、五条が彼女を縋るように見ていた目線が少し和らぐ。
「じゃあ、お休みの間、タソガレドキの領に来てくださいますか……?」
「ご、ご迷惑じゃなければ……!
不束者ですが、よろしくお願いします……!」
そう言って彼女は、縁側に腰掛けたままで五条に向かって頭を下げた。彼女の言い振りに少し驚いてから、なんだかそれこそまるで嫁入りの文句みたいだな、と思って五条は少しだけ笑った。
夏が来てその次は、二人が待ち遠しくする秋の長休みがあるのだ。きっと二人であちこちに行こうね、と五条はへへ…とちいまく笑う、彼女のその笑顔を見て思っている。
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