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- 五条弾とくのたまちゃん(15)
- 名探偵コナン(8)
- 呪術廻戦(8)
- 概要(1)
2024年5月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
#名探偵コナン
沖田くん✖️同級生女子
沖田君が髪を伸ばしている理由は知らないけれど、彼の髪が彼のまっさらな物言いと似て、芯があって強かな髪質であることは知っていた。
「なーあ、髪ゴムまた切れたわぁ」
「は、また?」
放課後の教室に残って日誌を書いていた私に、そう声をかけてきたのは件の沖田君だ。部活中だったのだろう、白い剣道着を着た彼は頬に垂れる髪をかき上げながら、教室の入り口で笑っていた。私はえええ、と苦い声をあげて鞄のポーチから百均の髪ゴムを取り出す。
「悪いなぁ」
「そう言うなら髪ゴムくらい予備を持ってきなよ」
いつもながら、悪いなんて全く思ってなさそうな言い振りだ。彼は差し出した髪ゴムを受け取ると、それを噛んで、後ろ手に髪をまとめ始めた。沖田君の節くれ立った指が不器用に動いて髪を纏めようとするが、ほつれて指先からすり抜けた髪が幾筋も首に落ちる。
「………………あかん」
「……もう、貸してよ」
「はは、悪ぃなぁ」
やっぱり悪いなんで欠片も思ってなさそうな声で、沖田君は噛んでいた髪ゴムをこちらに戻す。慣れたそぶりで一つ前の席の椅子を引いて、そこに腰掛けた。
「どうも鏡がないと勝手が違ってなぁ」
「トイレとかでやりなよ」
「いやぁ、ははぁ。面倒やん」
手櫛で硬質な彼の髪を梳かしていく。染めたことのない髪は手触りがよく、少しだけ石鹸の香りがする。彼の首筋に滲んだ薄い汗と、微かに震える私の指先。じゃれるような物言いに努めるけれど、胸の中では心臓が跳ねて、跳ねて、言うことを聞いてくれていない。
そんな私の心のうちを知らず、沖田君は手櫛で髪をとかれながらじっと黒板の方を見ていた。
「なぁ。俺以外にこんなこと、しぃひんでよ」
「他に髪ゴムが切れたなんて言ってくる人、いないよ」
反射的にじゃれ合いの延長で言い返してから、はっとして、髪を梳いていた指を少し止めた。まさか、そんな。
じくじくと、心臓が痛い。指を止めた私を、沖田君が肩越しに振り返って見た。彼の目尻は少し赤かったけれど、私の顔はもっと赤かったと思う。
「言うて、髪ゴム切れたなんてこと、俺がわざわざ言いに来る相手なんか、あんたしかおらんのやけど」
その意味、伝わるか?
ずるい沖田君はそう言って、髪に触れたままの私の指を自分の指でそっと摘んだ。節くれ立った指先は少し荒れていて、皮膚はびっくりするほど熱かった。
ねえそれ、好きですってことやん。言うてよ。
そう言いたかったのにずるい沖田君は、うわぁ顔真っ赤やん、カワイぃなぁと鼻先で笑うので、私はもう、何も言えなくなってしまった。
後日、剣道馬鹿の沖田君は寝起きに鏡なんて見たことないということを知って、私は再度赤面させられることになる。彼の髪の硬さとしなやかさを知っているのは、今のところ私のだけ、らしい。
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沖田くん✖️同級生女子
沖田君が髪を伸ばしている理由は知らないけれど、彼の髪が彼のまっさらな物言いと似て、芯があって強かな髪質であることは知っていた。
「なーあ、髪ゴムまた切れたわぁ」
「は、また?」
放課後の教室に残って日誌を書いていた私に、そう声をかけてきたのは件の沖田君だ。部活中だったのだろう、白い剣道着を着た彼は頬に垂れる髪をかき上げながら、教室の入り口で笑っていた。私はえええ、と苦い声をあげて鞄のポーチから百均の髪ゴムを取り出す。
「悪いなぁ」
「そう言うなら髪ゴムくらい予備を持ってきなよ」
いつもながら、悪いなんて全く思ってなさそうな言い振りだ。彼は差し出した髪ゴムを受け取ると、それを噛んで、後ろ手に髪をまとめ始めた。沖田君の節くれ立った指が不器用に動いて髪を纏めようとするが、ほつれて指先からすり抜けた髪が幾筋も首に落ちる。
「………………あかん」
「……もう、貸してよ」
「はは、悪ぃなぁ」
やっぱり悪いなんで欠片も思ってなさそうな声で、沖田君は噛んでいた髪ゴムをこちらに戻す。慣れたそぶりで一つ前の席の椅子を引いて、そこに腰掛けた。
「どうも鏡がないと勝手が違ってなぁ」
「トイレとかでやりなよ」
「いやぁ、ははぁ。面倒やん」
手櫛で硬質な彼の髪を梳かしていく。染めたことのない髪は手触りがよく、少しだけ石鹸の香りがする。彼の首筋に滲んだ薄い汗と、微かに震える私の指先。じゃれるような物言いに努めるけれど、胸の中では心臓が跳ねて、跳ねて、言うことを聞いてくれていない。
そんな私の心のうちを知らず、沖田君は手櫛で髪をとかれながらじっと黒板の方を見ていた。
「なぁ。俺以外にこんなこと、しぃひんでよ」
「他に髪ゴムが切れたなんて言ってくる人、いないよ」
反射的にじゃれ合いの延長で言い返してから、はっとして、髪を梳いていた指を少し止めた。まさか、そんな。
じくじくと、心臓が痛い。指を止めた私を、沖田君が肩越しに振り返って見た。彼の目尻は少し赤かったけれど、私の顔はもっと赤かったと思う。
「言うて、髪ゴム切れたなんてこと、俺がわざわざ言いに来る相手なんか、あんたしかおらんのやけど」
その意味、伝わるか?
ずるい沖田君はそう言って、髪に触れたままの私の指を自分の指でそっと摘んだ。節くれ立った指先は少し荒れていて、皮膚はびっくりするほど熱かった。
ねえそれ、好きですってことやん。言うてよ。
そう言いたかったのにずるい沖田君は、うわぁ顔真っ赤やん、カワイぃなぁと鼻先で笑うので、私はもう、何も言えなくなってしまった。
後日、剣道馬鹿の沖田君は寝起きに鏡なんて見たことないということを知って、私は再度赤面させられることになる。彼の髪の硬さとしなやかさを知っているのは、今のところ私のだけ、らしい。
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宿儺✖️転生主 夢の中の逢瀬
がじり、と歯先で噛まれた舌からは血が滲み、飲み下すことのできない唾液がつらつらと口の端から垂れていく。捉えられた舌は逃げ出すこともできず、目の前の大男は薄く涙を浮かべて痛みに喘ぐ私を、うっそりと笑った。
痛いと言いたいのに、そんなことも許されない。結局私などという矮小な存在は、彼の一挙一動にすべてを支配されている。
「なんだ、なんぞ言いたそうな顔だな」
「そんなこと……」
「いいぞ、今は機嫌がいい。言ってみろ」
目尻をにったりと下げて言う宿儺は、確かに機嫌がいいようだった。血の滲んだ舌は、少し喋るたびに刺すように痛む。痛覚が痺れて、息を吐き出しては刺激を堪える私の様を、宿儺は愉快そうに見た。喉から鼻先へ抜けていくような血錆の香りに、痛みとはこんなものであったか、と記憶の底を手繰る。
「……いつか死んだときも、そうしてくれればよかった」
ようよう吐き出した言葉に、宿儺は少し眉を持ち上げる。いつか死んだときから百年二百年と経ち続けて、宿儺は私を痛めつけることだけを繰り返す。いつかの宿儺が南へ向かったまま今へと越えてくることだけじゃなくて、そこに私を連れて行ってくれればよかったのに。
噛まれた舌から刺すように、鮮血が滲む。「今の私」に入り込んで、児戯のように痛めつけてみせるなら、「いつか死んだ私」を捕まえていて、殺し尽くしておいてほしかった。「今の私」をつかんで戯れみたいに魂を縛る宿儺に、「いつか死んだ私」が悋気を起こして憎しみを吐く。
「痛めつけるが、殺す気はない」
そう言った宿儺は、嬉しそうだった。
一人で来世へ行ってしまった私は、いつか死ぬ前に置いていかれた憎しみに泣いて叫んだ私より、幾らも、新しくなってしまった。宿儺が無理やりにでも私の魂を縛って痛みだけを与えるその理由を、私は執着と解釈することは許されるだろうか。
小さな電子音のアラームが、宿儺との淡い逢瀬を切り裂いて、晴れた朝を突きつける。薄いカーテンの隙間から覗く朝日は白い。べったりとした宿儺の夢とは、まるで真反対だった。
夢の中だから、夢の中だからこそ。血錆の味はもう口内に残っていなくて、宿儺は結局私に何も残してくれない。夢の残滓の感情だけが鮮明で、モノも体も傷も痛みも、何一つ残りはしないのだ。
「殺す気がないなら、呼ばないでよ」
最低な気分だった。いつか死ぬ前に愛していた男に毒付こうが、彼に聞こえるはずもない。もし宿儺が私に執着を残したというなら、きっと、私のこの愚かさこそを、愉悦と思っていたのだろう。
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