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No.18

#五条弾とくのたまちゃん  
デフォ名垂れ流し 現パロ

03. 日にち薬(最寄り/わずか/急かす)

 駅前で待ち合わせの約束をしたのは、どっか食べに行こうよ、と彼女を誘ったからである。華の金曜日という文言はカレンダー通りの会社員生活を続けている限り今も有効な言葉で、週半ばにメッセージアプリで連絡を取ったときに、観たい映画があるから五条さん付き合ってくれませんか、と彼女から聞いてきたのだ。
 じゃあご飯食べて、それから映画観に行こうよ、金曜の夜に、という話になって、ウキウキしながら退勤をして今である。彼女はあまり出掛けたがらず、五条が誘えば着いてきてくれるけれど彼女から「どこそこに行きたい」と言ってくれることは少ないので、とても嬉しい。
 それが表にも滲み出ていたようで、帰り際にもう少し残業していく、と言った反屋に「顔緩んでるぞ」と呆れ顔で素気無く言われた。

 会社の最寄り駅では、彼女が改札の近くでスマホを眺めながら待っていてくれて、遠目にも彼女の姿がわかる。高校生のときより少しだけ大人びたように見えるのは自分の欲目なのか、それとも実際にそうなのか、五条にはもう判断がつかなかった。
 スマホを眺めていた彼女が、ふと顔を上げて、少し向こうにいた五条を見つけて、微笑む。それに片手を上げて応えながら、なんだか少しだけ泣きそうだ、なんて思った。

「五条さん、お疲れ様です」
「うん、ミヨシちゃんも」
「私は今日、授業が早く終わったから。サークルにいて」

 二人で改札を抜けて歩いて行きながら、彼女はちまちまと今日あったこととか先輩や同級生の話をして、楽しそうに笑う。昔みたいに人ごみに慣れなくて怖がる素振りはもうなかったけれど、手と手が触れあうくらいに互いに近くにいて、彼女の話を聞きながらデートに行く。そういう当たり前ができることが今でもいつだって、嬉しくて仕方なかった。
 駅のホームに入って、映画楽しみなんです、と言って笑う彼女の頬を指先でむにむに撫でながら、じっと彼女の目を見る。「五条さん?」と彼女は不思議そうに聞いたけれど、笑うだけで五条は何も言わなかった。
 傍から見たら、どつき回したいくらいのバカップルだろうな、と思っている。
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