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No.31

#五条弾とくのたまちゃん

14. ユートピア
 ひとり/滑る落ちる/ペトリコール(雨が降り始めるときに地面から漂ってくる独特の匂い)

 田舎育ちか都会育ちか、と聞かれたら純然だる田舎育ちである、と答えることができる。
 普段生活していてそれを強く意識することはあまりないのだけど(電車に乗るだけでもたつくのは、彼女が単にドン臭いからである)、自分が普通に知っている虫の姿形や、稲の苗付けや稲刈りの時期がいつかなのかということ、近所の反屋宅が手配して引くまでなかった光回線や、そういう思い出をつらつらと思い出して話すと、大抵最近出会った人には少し驚かれる。
 自分の当たり前が当たり前でないことは、そうして往々にしてあるのだな、というのが彼女の感想である。
 だから、二人で入った映画館から出てたときも雨の匂いがしたから、思わず言ってしまった。

「雨の匂いがする」
「あ、本当だ」

 隣の五条は同じく鼻を鳴らして、頷く。大学で一緒に過ごしている先輩や同輩たちよりも彼女のほうが嗅覚が鋭いようで、雨の匂いと言ってもわからない者も多いのだが、隣の五条は自分と同じようにそれがわかってくれる。
 そう言えば、この人は同じ村出身の同じ田舎育ちだったな……と思って少しだけ彼女は五条を見上げた。「ん?」 どうしたの?という言葉を少しの声に含めて、五条は隣の彼女を見下ろしてくる。

「ううん、なんでもない。五条さんと私って一緒の場所で育ったんだなって、今更思っただけ」
「なぁに、それ」

 今更なことを彼女がいうので、五条は少し笑った。
 彼女からしてみれば、五条は何でも卒なくこなして大抵のことを困らずにやってしまうし、何となく都会の人だ…とよく思うのだけど、生まれ育ちは同じ場所なのだとふとしたときに思い出す。

「お茶して帰ろうかと思ったけど、雨降るなら先に家に帰る?」
「うん。どこかで、お菓子買って家でお茶にしたいです」
「いいよ」

 言いながら、互いの手を取って繋いで映画館から出て歩き出す。雨が本当に降るかどうかはわからないけれど、こうして帰り道を一緒に歩けることがただ嬉しかった。
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