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呪術廻戦
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名探偵コナン
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概要
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2024年6月17日
の投稿
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件]
#呪術廻戦
七海建人✖️年上幼馴染
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そんなことないよ、と言ってくれる期待をしていた。それに気づいたのは彼女が唇の端を小さく震わせたのを見てから、だった。
自律的な男である、と七海は周りから称されるし自身でもそうありたいと思っている。随分久しぶりに生家近くへ戻ってきて、幼少の頃に遊んだ小さな公園を眺めたりしていた。向こうがぼんやりとこちらを眺めるので、七海のほうもようやく、ああ、あれは子どもの頃に一緒に遊んだ近所の少し年上の少女だった、と思い出したのだった。買い物帰りだったらしい彼女は小さく手を振って、七海に話しかけた。それが再会だった。
再会した彼女と男女の関係になるのにそう大した時間はかからず、七海は自分の職業を聞かれて「専門職」とだけ答えていた。時折生傷を作って帰ったときはあまり彼女に見つからないように気を遣ったし、任務中には連絡がつかないこともあった。
危ぶむような、不安げな彼女の視線を知らなかったわけではなく、ただどうすることが正解なのかは七海にもわからなかった。
「仕事中」にばったりと出会してしまったのは、きっとそういう七海の煮え切らなさへの戒めのようなものなのだろう。鉈で叩き割った呪霊の頭と、その奥で呆然と七海を見る彼女の大きな目が、心に染みついている。
「……建人くんはさ、」
どうにか予定を合わせて会った彼女の、七海から逸らされた目を見て終わりを悟った。大きく花のように、呪霊の血が散った。飛び散った血は七海の頬に噴きかかり、血潮が七海のシャツを服を髪を、肌を、汚した。彼女が触れて、合間の小さな愛を噛み締めたほんの少しの時間に、彼女が指先で悪戯に辿った七海の肌を、赤い血が汚していった。
「ごめんね、なんて言えばいいか、わからないや」
人気の多いカフェのテラスの陽光の中で、白く彼女は困ったように微笑んでいる。私は。小さく言いかけた七海に少し視線を移して、そして彼女は困ったように目を細めた。
「ああしたものを『殺して』生計を立てています。今回のように恐ろしい異形もいますが、そればかりでもない。どうか理解がもらえれば、と」
「教えてもらえていたら、違ったかもしれないと思うよ。そういう心の準備があれば。……でも建人くんは教えてくれなかったじゃない」
自業自得なのだ、と暗に言われて喉の奥が痛んだ。飲み込めない唾液は、けれど、からからに喉が渇いていく。
喘ぐように、「怖いですか」と聞いた。彼女の唇の端が小さく震える。小さな子ども頃にも聞いた、彼女を見る七海の目にそっと微笑んで、言ってくれる。「そんなことないよ」というその許しが、欲しかった。
甘く淡い愛に焦がれて、彼女の優しさに甘えて、そして心を置き去りにした。これは報いなのだ、と自分に言い聞かせるのにも、目の前の彼女の合わない視線が胸の底を抉る。神様も何もかも、ひとつもない。きっと人生とは自分自身とは、クソだ。
彼女は伝票を持って出て行った。置き去りのアイスコーヒーのグラスの肌を、結露した雫が伝っていく。外は晴れて白い日差しが差し込むのに、向かいの席に彼女はもう、いない。
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1305文字,
2024.06.17 09:20
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七海建人✖️年上幼馴染
そんなことないよ、と言ってくれる期待をしていた。それに気づいたのは彼女が唇の端を小さく震わせたのを見てから、だった。
自律的な男である、と七海は周りから称されるし自身でもそうありたいと思っている。随分久しぶりに生家近くへ戻ってきて、幼少の頃に遊んだ小さな公園を眺めたりしていた。向こうがぼんやりとこちらを眺めるので、七海のほうもようやく、ああ、あれは子どもの頃に一緒に遊んだ近所の少し年上の少女だった、と思い出したのだった。買い物帰りだったらしい彼女は小さく手を振って、七海に話しかけた。それが再会だった。
再会した彼女と男女の関係になるのにそう大した時間はかからず、七海は自分の職業を聞かれて「専門職」とだけ答えていた。時折生傷を作って帰ったときはあまり彼女に見つからないように気を遣ったし、任務中には連絡がつかないこともあった。
危ぶむような、不安げな彼女の視線を知らなかったわけではなく、ただどうすることが正解なのかは七海にもわからなかった。
「仕事中」にばったりと出会してしまったのは、きっとそういう七海の煮え切らなさへの戒めのようなものなのだろう。鉈で叩き割った呪霊の頭と、その奥で呆然と七海を見る彼女の大きな目が、心に染みついている。
「……建人くんはさ、」
どうにか予定を合わせて会った彼女の、七海から逸らされた目を見て終わりを悟った。大きく花のように、呪霊の血が散った。飛び散った血は七海の頬に噴きかかり、血潮が七海のシャツを服を髪を、肌を、汚した。彼女が触れて、合間の小さな愛を噛み締めたほんの少しの時間に、彼女が指先で悪戯に辿った七海の肌を、赤い血が汚していった。
「ごめんね、なんて言えばいいか、わからないや」
人気の多いカフェのテラスの陽光の中で、白く彼女は困ったように微笑んでいる。私は。小さく言いかけた七海に少し視線を移して、そして彼女は困ったように目を細めた。
「ああしたものを『殺して』生計を立てています。今回のように恐ろしい異形もいますが、そればかりでもない。どうか理解がもらえれば、と」
「教えてもらえていたら、違ったかもしれないと思うよ。そういう心の準備があれば。……でも建人くんは教えてくれなかったじゃない」
自業自得なのだ、と暗に言われて喉の奥が痛んだ。飲み込めない唾液は、けれど、からからに喉が渇いていく。
喘ぐように、「怖いですか」と聞いた。彼女の唇の端が小さく震える。小さな子ども頃にも聞いた、彼女を見る七海の目にそっと微笑んで、言ってくれる。「そんなことないよ」というその許しが、欲しかった。
甘く淡い愛に焦がれて、彼女の優しさに甘えて、そして心を置き去りにした。これは報いなのだ、と自分に言い聞かせるのにも、目の前の彼女の合わない視線が胸の底を抉る。神様も何もかも、ひとつもない。きっと人生とは自分自身とは、クソだ。
彼女は伝票を持って出て行った。置き去りのアイスコーヒーのグラスの肌を、結露した雫が伝っていく。外は晴れて白い日差しが差し込むのに、向かいの席に彼女はもう、いない。
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