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2024年7月14日の投稿[3件]
#名探偵コナン
諸伏高明✖️弟の友達 その②
同僚から元彼からのストーカー被害に悩んでいて、家族からは警察へ相談へ行けと何度も言われているけれど、警察へ行くのも怖くて迷っている、と聞かされたときに、まず頭に浮かんだのはコウメイさんのことだった。
コウメイさんは近所に住んでいた友達のお兄さんで、先日道端でばったりと出くわした。というか、私がその友達と勘違いして話しかけてしまったのだ。なんやかやと連絡先を交換して、時折ご飯を食べに行ったり行楽に行く関係が続いている。彼も私も恋人がおらず趣味が似ているので、いい友人関係なのだ。
少し悩んでから同僚に「刑事さんの知り合いがいるので、相談に乗ってくれないか聞いてみる」と言ってから、コウメイさんは何とその日中に会う段取りを付けてくれた。そしてその三時間後には、なぜか私はコウメイさんの勤務する県警本部にいた。
コウメイさんに話を聞いてもらい、コウメイさんも付き添ってくれると言うのでとりあえずこれから最寄りの警察署へ行こうとしていたときに、件のストーカー、つまり同僚の元彼が「男と会っている!!」と激高して襲ってきたのだ。展開が早すぎる。
まあそのストーカーの元彼がコウメイさんのような人に適うはずもなく、私と同僚を尾けていた不審者に気づいたコウメイさんが、早々に呼んでいた応援の刑事さんに取り押さえられて、お縄になった。そのまま調書を作ると同僚と共に県警に連れてこられたというわけだ。
「先ほどのような、ああいう行いは感心しませんね」
コウメイさんがそう切り出したのは、彼の車の中でのことだった。夜も遅いし送ると言われたので、ありがたく彼の車に乗り込んだのだ。コウメイさんはハンドルを握りながら、じっと信号を見ている。
「『ああいう』とは……?」
「あなた、先ほどの男が襲ってきたときに同僚の女性を庇って、前に出たでしょう」
コウメイさんに自宅まで送ってもらうのは、これが初めてのことではない。彼は勝手知ったるように私の家まで車を走らせていく。
「ああ。あの人が彼女を狙っているのはわかっていましたし」
「そういった自己犠牲的な行いは、すべきではありません」
「でも、何もせず目の前で人が刺されるほうが、後で後悔しませんか?」
そう言えば、コウメイさんは深々と溜息を吐いた。いつの間にか自宅のマンションの前に到着していて、私はコウメイさんに今日のお礼を言おうと、彼を見る。するとコウメイさんも、私のほうを見ていた。
「…………心配になるので、やめてくれませんか?」
小さな子どもに言い聞かせるようなコウメイさんの物言いに、私はぐっと言葉に詰まる。幼少期にも世話になったことがある人というのは、ずるいのだ。都合のいいときばかり、こちらを子ども扱いして優しくして、言い聞かせようとしてくる。コウメイさんみたいに。
「……気を付けます」
「素直でよろしい」
コウメイさんはふっと笑い声を溢して、しおしおと項垂れた私の頭を軽く撫でた。私には兄弟はいないが、兄がいたらこんな感じなんだろうか。大きな手のひらが少しくすぐったい気持ちで彼を見れば、目が合ったコウメイさんは「しまった」と我に返った顔をして、さっと手を引いた。
「申し訳ありません。セクハラでした」
「……は、……え!!? いえ気にしてません!! なんならもう百回ぐらい撫でていただいてもいいです! 私のことは犬か猫だと思って!! さあ! どうぞ!!」
「……あの、あなたも妙齢の女性なのですから。『自分を犬猫だと思え』は、どうかと思いますよ」
そう言って窘める顔のコウメイさんは、それから堪えきれないとばかりに少し笑った。だから、私も嬉しくて笑ってしまった。
笑ったその顔は今も、おもかげの中のひろみつ君と、そっくりだったのだ。
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諸伏高明✖️弟の友達 その②
同僚から元彼からのストーカー被害に悩んでいて、家族からは警察へ相談へ行けと何度も言われているけれど、警察へ行くのも怖くて迷っている、と聞かされたときに、まず頭に浮かんだのはコウメイさんのことだった。
コウメイさんは近所に住んでいた友達のお兄さんで、先日道端でばったりと出くわした。というか、私がその友達と勘違いして話しかけてしまったのだ。なんやかやと連絡先を交換して、時折ご飯を食べに行ったり行楽に行く関係が続いている。彼も私も恋人がおらず趣味が似ているので、いい友人関係なのだ。
少し悩んでから同僚に「刑事さんの知り合いがいるので、相談に乗ってくれないか聞いてみる」と言ってから、コウメイさんは何とその日中に会う段取りを付けてくれた。そしてその三時間後には、なぜか私はコウメイさんの勤務する県警本部にいた。
コウメイさんに話を聞いてもらい、コウメイさんも付き添ってくれると言うのでとりあえずこれから最寄りの警察署へ行こうとしていたときに、件のストーカー、つまり同僚の元彼が「男と会っている!!」と激高して襲ってきたのだ。展開が早すぎる。
まあそのストーカーの元彼がコウメイさんのような人に適うはずもなく、私と同僚を尾けていた不審者に気づいたコウメイさんが、早々に呼んでいた応援の刑事さんに取り押さえられて、お縄になった。そのまま調書を作ると同僚と共に県警に連れてこられたというわけだ。
「先ほどのような、ああいう行いは感心しませんね」
コウメイさんがそう切り出したのは、彼の車の中でのことだった。夜も遅いし送ると言われたので、ありがたく彼の車に乗り込んだのだ。コウメイさんはハンドルを握りながら、じっと信号を見ている。
「『ああいう』とは……?」
「あなた、先ほどの男が襲ってきたときに同僚の女性を庇って、前に出たでしょう」
コウメイさんに自宅まで送ってもらうのは、これが初めてのことではない。彼は勝手知ったるように私の家まで車を走らせていく。
「ああ。あの人が彼女を狙っているのはわかっていましたし」
「そういった自己犠牲的な行いは、すべきではありません」
「でも、何もせず目の前で人が刺されるほうが、後で後悔しませんか?」
そう言えば、コウメイさんは深々と溜息を吐いた。いつの間にか自宅のマンションの前に到着していて、私はコウメイさんに今日のお礼を言おうと、彼を見る。するとコウメイさんも、私のほうを見ていた。
「…………心配になるので、やめてくれませんか?」
小さな子どもに言い聞かせるようなコウメイさんの物言いに、私はぐっと言葉に詰まる。幼少期にも世話になったことがある人というのは、ずるいのだ。都合のいいときばかり、こちらを子ども扱いして優しくして、言い聞かせようとしてくる。コウメイさんみたいに。
「……気を付けます」
「素直でよろしい」
コウメイさんはふっと笑い声を溢して、しおしおと項垂れた私の頭を軽く撫でた。私には兄弟はいないが、兄がいたらこんな感じなんだろうか。大きな手のひらが少しくすぐったい気持ちで彼を見れば、目が合ったコウメイさんは「しまった」と我に返った顔をして、さっと手を引いた。
「申し訳ありません。セクハラでした」
「……は、……え!!? いえ気にしてません!! なんならもう百回ぐらい撫でていただいてもいいです! 私のことは犬か猫だと思って!! さあ! どうぞ!!」
「……あの、あなたも妙齢の女性なのですから。『自分を犬猫だと思え』は、どうかと思いますよ」
そう言って窘める顔のコウメイさんは、それから堪えきれないとばかりに少し笑った。だから、私も嬉しくて笑ってしまった。
笑ったその顔は今も、おもかげの中のひろみつ君と、そっくりだったのだ。
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#名探偵コナン
諸伏高明✖️弟の友達 その①
ひろみつ君、と思わず声をかけたのは、記憶の中にあるひろみつ君と背中の骨の形がよく似ていたからだ。小学校の同級生だったひろみつ君は東都へ引っ越ししてしまったけど、夏休みや冬休みには長野へ戻ってきていて、そのときに数度会った。年によくて一回会う程度の彼は、他の同級生よりも成長の具合がわかりやすかった。だって年に一回会えるか会えないか、だったから。
だから、駅の近くでひろみつ君に似たスーツの背中を見たときに「前に見たときと似たひろみつ君だ」と思ったのは、私の中では道理だった。けれど振り向いたその人は、ひろみつ君ではなくてもっと年上の男の人だった。
「景光は私の弟ですが……」
暗にあなたは?と聞かれて、慌ててひろみつ君の同級生なのだ、と答える。彼はそうですか、と綻ぶように言って、少し考える素振りをしてから時間があるならお茶でもどうか、と言われた。最近会っていないので友人からの景光の話が聞きたいと彼は言い、大して話せる話があるわけではないが、お兄さんからひろみつ君の話が聞いてみたいのは、私も同じだった。
ひろみつ君は、私の初恋だった。
みんなでかくれんぼをしていたときに、私だけ見つけてもらえなかったことが一度あった。見つけてもらえるのを待っているうちにいつ間にか日が暮れて、暗くて怖くて、動けなくなってしまった。そんなときに見つけてくれたのがひろみつ君だった。
「ああ、あの時の子はあなたですか」
腰を落ち着けた喫茶店でその話をしたら、お兄さんは心当たりがあるようだった。
「景光と一緒に遊んでいた女の子が日が暮れても帰って来ないと言うので、景光と探しに行ったことがあります。
その子はいつも隠れるのが上手で、景光に聞くと思ってもみないところ、鬼の後ろをついて回ったり一度探した場所に隠れ直したりと、人の死角を取るのが上手いようでした。確かあの時は植栽の中に入り込んで、怖くて身動きができなくなっていたんでしたね」
過去の自分のやらかしを他人に覚えられているというのは、恥ずかしいものだ。お兄さんの言う通りで、私は公園の植栽の奥に入り込んだはいいものの、あろうことかそこで寝てしまい、気がついたら周りは真っ暗だった。友達は、私を呼んでも返事がないので家に帰ったと思っていたらしい。
「植栽の枝が少し折れているの見つけて、景光に頼んで奥を見てもらったら本当に女の子が中にいたので、あの時は驚きました」
「う"ぅ……、その節は大変ご迷惑を…………」
「いえ、探したときは8歳とはいえ女の子が本当にこんなところに隠れるものか、と思ったのですが、景光は『あの子は見つからないなら、絶対隠れる』というもので。
私も感心した覚えがあります」
「恥ずかしい…………」
思わず顔を覆うと、お兄さんは微笑ましいものを見る目で私を見た。赤くなった頬と耳をパタパタと扇いでから、そういえば、と思った。
「だけど、見つけてくれたのがひろみつ君のお兄さんの二人なら。
私の初恋はひろみつ君ともう一人、お兄さんってことになるんですね」
あの時、見つけてもらったときの記憶は大泣きしたせいで曖昧だが、後からひろみつ君が見つけてくれたと聞いて、それからひろみつ君がヒーローみたいに思えたのだ。それが初恋の始まりだった。
だから見つけてくれたのがお兄さんもなら、ヒーローはひろみつ君とお兄さんの二人になる。
そう何気なく言えば、お兄さんは少し虚をつかれたような顔をしてから「なるほど」と、目尻を下げて笑った。
「なるほど。あなたのような可愛い人に『あなたが初恋だ』と言われるのは、確かに存外気分がいいものですね」
「あ、……え?! そういう意味ではなく!」
「そうですか? 私としては、それが天長地久であってもいいと、思いますよ」
「は、……は? え!?」
「そろそろ行きましょうか」
お兄さんは含み笑いをしながら伝票を取り、席を立った。どういう意味なのか聞いても教えてはくれず、「どうしてもわからなければ連絡下さい」と連絡先を書いた名刺を渡される。数日唸りながら言われた内容を考えてみたが全くわからず、名刺の連絡先に「わかりません」と泣きつきのメッセージを送った私に、お兄さんはこう返してきた。
『天長地久 天地が永遠につきないように、物事がいつまでも変わることなくあることの例え』
返信を見て、頭の中がじわじわと冴えていく。つまりお兄さんは「今も初恋が続いていてもいい」と言ったということか? それは一体どういう意図で……と困惑しながら思っていたところに、追加で返信がきた。冗談ですよ、の一言にほっと安堵の息を吐いたのもつかの間、続いた文言に私は再度唸ることになった。
『冗談ですよ。ところで折角連絡を下さったのですから、食事でも。
いかがですか?』
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諸伏高明✖️弟の友達 その①
ひろみつ君、と思わず声をかけたのは、記憶の中にあるひろみつ君と背中の骨の形がよく似ていたからだ。小学校の同級生だったひろみつ君は東都へ引っ越ししてしまったけど、夏休みや冬休みには長野へ戻ってきていて、そのときに数度会った。年によくて一回会う程度の彼は、他の同級生よりも成長の具合がわかりやすかった。だって年に一回会えるか会えないか、だったから。
だから、駅の近くでひろみつ君に似たスーツの背中を見たときに「前に見たときと似たひろみつ君だ」と思ったのは、私の中では道理だった。けれど振り向いたその人は、ひろみつ君ではなくてもっと年上の男の人だった。
「景光は私の弟ですが……」
暗にあなたは?と聞かれて、慌ててひろみつ君の同級生なのだ、と答える。彼はそうですか、と綻ぶように言って、少し考える素振りをしてから時間があるならお茶でもどうか、と言われた。最近会っていないので友人からの景光の話が聞きたいと彼は言い、大して話せる話があるわけではないが、お兄さんからひろみつ君の話が聞いてみたいのは、私も同じだった。
ひろみつ君は、私の初恋だった。
みんなでかくれんぼをしていたときに、私だけ見つけてもらえなかったことが一度あった。見つけてもらえるのを待っているうちにいつ間にか日が暮れて、暗くて怖くて、動けなくなってしまった。そんなときに見つけてくれたのがひろみつ君だった。
「ああ、あの時の子はあなたですか」
腰を落ち着けた喫茶店でその話をしたら、お兄さんは心当たりがあるようだった。
「景光と一緒に遊んでいた女の子が日が暮れても帰って来ないと言うので、景光と探しに行ったことがあります。
その子はいつも隠れるのが上手で、景光に聞くと思ってもみないところ、鬼の後ろをついて回ったり一度探した場所に隠れ直したりと、人の死角を取るのが上手いようでした。確かあの時は植栽の中に入り込んで、怖くて身動きができなくなっていたんでしたね」
過去の自分のやらかしを他人に覚えられているというのは、恥ずかしいものだ。お兄さんの言う通りで、私は公園の植栽の奥に入り込んだはいいものの、あろうことかそこで寝てしまい、気がついたら周りは真っ暗だった。友達は、私を呼んでも返事がないので家に帰ったと思っていたらしい。
「植栽の枝が少し折れているの見つけて、景光に頼んで奥を見てもらったら本当に女の子が中にいたので、あの時は驚きました」
「う"ぅ……、その節は大変ご迷惑を…………」
「いえ、探したときは8歳とはいえ女の子が本当にこんなところに隠れるものか、と思ったのですが、景光は『あの子は見つからないなら、絶対隠れる』というもので。
私も感心した覚えがあります」
「恥ずかしい…………」
思わず顔を覆うと、お兄さんは微笑ましいものを見る目で私を見た。赤くなった頬と耳をパタパタと扇いでから、そういえば、と思った。
「だけど、見つけてくれたのがひろみつ君のお兄さんの二人なら。
私の初恋はひろみつ君ともう一人、お兄さんってことになるんですね」
あの時、見つけてもらったときの記憶は大泣きしたせいで曖昧だが、後からひろみつ君が見つけてくれたと聞いて、それからひろみつ君がヒーローみたいに思えたのだ。それが初恋の始まりだった。
だから見つけてくれたのがお兄さんもなら、ヒーローはひろみつ君とお兄さんの二人になる。
そう何気なく言えば、お兄さんは少し虚をつかれたような顔をしてから「なるほど」と、目尻を下げて笑った。
「なるほど。あなたのような可愛い人に『あなたが初恋だ』と言われるのは、確かに存外気分がいいものですね」
「あ、……え?! そういう意味ではなく!」
「そうですか? 私としては、それが天長地久であってもいいと、思いますよ」
「は、……は? え!?」
「そろそろ行きましょうか」
お兄さんは含み笑いをしながら伝票を取り、席を立った。どういう意味なのか聞いても教えてはくれず、「どうしてもわからなければ連絡下さい」と連絡先を書いた名刺を渡される。数日唸りながら言われた内容を考えてみたが全くわからず、名刺の連絡先に「わかりません」と泣きつきのメッセージを送った私に、お兄さんはこう返してきた。
『天長地久 天地が永遠につきないように、物事がいつまでも変わることなくあることの例え』
返信を見て、頭の中がじわじわと冴えていく。つまりお兄さんは「今も初恋が続いていてもいい」と言ったということか? それは一体どういう意図で……と困惑しながら思っていたところに、追加で返信がきた。冗談ですよ、の一言にほっと安堵の息を吐いたのもつかの間、続いた文言に私は再度唸ることになった。
『冗談ですよ。ところで折角連絡を下さったのですから、食事でも。
いかがですか?』
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諸伏高明(?)✖️弟の友達 その③
近所に住んでいた少女と、東都で再会したのは全くの偶然だった。
警察学校に在籍していたころに、近所の公園でキャッチボールをしていたら泣いている子どもたちと行き当たったことがある。どうしたのかと思い話を聞けば、近所の大学生とかくれんぼをしていたが、全く見つからず困っているらしい。その大学生は隠れることが得意で、いつもは見つからなくても呼べばどこかから出てきてくれるのに、今日は出てきてくれない。そう言って泣く子どもたちを宥め、何となくどこかで聞いたことのある話だと思った。
結果として、その『大学生』は公園の植栽の奥で、膝を抱えて寝ていた。幼い頃の記憶が、ありありと蘇る。あのときも彼女はかくれんぼをして見つけられず、夜遅くまで植栽の中に隠れていた。
「……え?! 君って……」
「…………ん、ひろみつ、君……?」
驚きで素っ頓狂な声を上げた景光に、寝ていた彼女はぼんやりと目を開けて、景光を呼んだ。年に数度、長野へ帰省したときに彼女の顔を見ることもあった。それでも、東都のこんな場所に彼女がいるとは思ってもみなかった。
「え、なんでこんなところに……?」
「ん、会社の研修で本社に……、ひろみつ君は?」
「俺は警察学校に、今、通ってて」
「そっかぁ、警察官になるんだ」
景光の話を聞いた彼女は、嬉しそうにふにゃ、と笑った。
「昔もこうやって見つけに来てくれたものね。あのときのひろみつ君はヒーローみたいだったから、本当に正義のヒーローになっちゃうんだね。すごいね」
照れもせず恥ずかし気もなくそんなことをいう彼女に、景光のほうが赤面をして俯いた。ややあって遠くから自分を呼ぶ降谷の声がして、慌てて彼女を見れば、もう寝ていた。起きない彼女を抱えて植栽から這いずって出たのも、今ではいい思い出だ。
兄の車のナンバーは、特徴的だ。
長野へ戻ってきたのは、会うことはできなくても少しだけでも兄に顔を見て、そして両親の墓参りができれば、と思ったからだ。両親の墓は兄が世話を欠かしていないようできれいに掃除が行き届いており、身につまされるような申し訳のない気持ちになった。
兄のマンションにはまだ車が戻っておらず、昔住んでいた家や公園をぶらぶらと見ながら、昔、近所に住んでいた女の子を探したときのことを思い出す。自然と足が向いたのは、その彼女の自宅方面だった。
兄の車のナンバーは、特徴的だ。彼女の自宅の側まで走ってきたその車を見て、すぐに兄だとわかった。
木の陰に隠れながら車内で親しそうに会話をする二人を盗み見て、あの二人に面識はあっただろうか、と驚きと衝撃で霞む思考の奥で考えた。いや、なかっただろう。あればあんなにも素直で何を考えているのかすぐにわかる彼女が、お兄さんに会ったよ、と景光に話さないはずがない。
だから兄と彼女に面識ができたのは、景光が二人と連絡を取ることができなくなってからだ。
何事かを言った兄に、彼女が子犬のようにしょげて頭を垂れる。兄はそんな彼女を見て、仕方がない、とでも言うようにその頭を撫でた。兄はとても面倒見がよく、景光もいつもああして撫でられていた。兄の目は、幼い景光を見ていたときと同じものだった。
喉の奥が熱かった。ぐっと唾を飲み下そうにも、喉がからからに乾いている。喘ぐように、胸の奥が痛かった。自分はこんな木陰に隠れて二人を見ていて、その二人は親しそうに笑っている。紛うことなく、それは嫉妬の感情であった。
ややあって、兄は撫でていた手のひらを慌てて引き、恐らく謝罪したのだろう。それを聞いた彼女は大きく首を振り、もっと撫でてくれていいとでもいうように、自身の頭をぽんぽんと叩く。彼女の明るい声音が、少しだけ車外に漏れてきていた。
「俺、何、してんだろ……」
ぽつりと呟く。本当に、何をしているのだろう、自分は。
兄と彼女と、二人の前に姿を現すこともできず、両親の墓守りも何もかもを兄に押し付けて、彼女が笑って言った「正義のヒーロー」にあるまじき行いを、続けている。
彼女の言葉に思わず緩んだような兄の微笑みを見て、景光は耐えきれず二人に背を向けた。夜明けには東都へ戻らなければいけない。「警察官の職務」として与えられた、あの組織の「スコッチ」という役割に戻らなければいけない。
『本当に正義のヒーローになっちゃうんだね。すごいね』
耳の奥でいつかのあの日の、無垢な彼女の称賛が木霊する。すごくなんかない、俺じゃない。あのとき彼女を見つけたのだって、本当は兄だった。だからきっと彼女のヒーローは、俺じゃない。それでも、その言葉に縋って続けてきたのだ。だから、盗らないでほしかった。
彼女の初恋を、自分を彼女のヒーローのままでいさせてほしかった。
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