前回読んだ位置に戻りますか?

肉薄、緊迫、踏み込む一動

 規則ただしく、木刀が風を切る音が聞こえる。今朝は窓辺にオオデマリの花は置いてあった。さすがにわかるなと思いながら、手折られた枝を花器に差し込む。先日のリンゴに似た花にその前のハリエンジュ。それより前のミズキは散りかけだが青い葉をまだ残している。この家に住んでいるのはわたしと冨岡の二人で、誰か他人が勝手に入ってきたならさすがに冨岡は気づくだろう。だから、この花をここへ置きに来ているのは冨岡である、ということになる。
 こうも何度も続くと、まめに女に花を贈るようなおとこだったのかという感心が半分、困惑が半分といったところだ。わたしは触れていたミズキの葉から手を放すと、朝食の支度のために部屋を出た。今朝は鮭を焼くつもりだった。

 昼前に宇髄様が来た。また冨岡と連れだって出かけるのかと思いきや、今日は違うらしい。
 茶を出すとお前もいろというので座せば、近頃この辺りで未婚の若い娘がいなくなる、いわゆる『神隠し』というやつが多発しているらしい。以前であれば鬼の仕業だろうと踏んで隊士が討伐に向かうところだが、鬼舞辻が死んでからは鬼の気配もなく、竈門少年の見分(嗅分)でも鬼は見つかっていないらしい。

「とすると、人間の仕業じゃねえかって話も出てくるわけだし、鬼がいなくなってから鬼以外の……なんつうんだ。
 『ばけもの』が出やがるんだ」
「『ばけもの』ですか?」
「おう。まァたいていは大した獲物でもないんだがな。俺や冨岡が切っちまえる上、鬼のように日輪刀でしか殺せないわけでもない」
「それはようございましたが……危険はないので?」

 そうは言うが宇髄様は上弦の陸との闘いで左目と左手を失っているし、冨岡も同じく隻腕だ。思わず聞けば、珍しいことに冨岡のほうが口を開いた。

「鬼に比べればどうてことはない」
「それは、そうでしょうが……」

 言い切る冨岡に、言葉がつまる。たしかに鬼との戦闘が難儀なところは、倒すための制約があったことだ。人間なら心臓をついても、袈裟懸けに切っても、脳天を割っても、死ぬ。しかし鬼を殺すには日の光に当てるか、日の光の力を帯びた日輪刀で首を落とすかしかなかった。
 宇髄様と冨岡が相手にしている「ばけもの」はある程度の致命傷を与えれば死ぬらしく、致命傷となる損傷も動物や人間に与えるものと代わりがないとのことだった。

「本当は、治金も心配するだろうから話すつもりはなかったんだが、さすがに被害が若い女に限定されるとお前に伝えておかねえわけにもいかん。娘がいなくなったというのは夜分のことが多いし、そういう『ばけもの』も日が暮れてから活動しはじめるのは鬼と同じだ。
 しばらく夜分は気を付けて暮らせ。俺もこの辺りを哨戒するが、庭先での失踪報告もあるからな」
「はあ、わかりましたが……、奥方様がたはよろしいので?」
「阿呆、あいつらは俺の嫁だぞ。未婚の娘じゃないだろう」
「ああ、そうですね」

 確かにそれもそうだとうなづくと、宇髄様は呆れたように額に手を当ててうなった。
 
「と、いうかだな、お前らもいい加減に……」
「宇髄、そろそろ時間だ。不死川を呼んでいるのだろう」
 
 冨岡は唐突に宇髄様の言葉を遮り、さっさと立ち上がる。急な冨岡の急かしに一瞬あっけにとられたような宇髄様は、苦虫を噛んだような顔に変えて茶を一息に飲み込むと、「とにかく、派手に気をつけろ!」とわたしに言いつけ、座敷を出ていった。
 衣文掛けから羽織を取ってきて冨岡の肩へ掛ける。羽織に隠れるよう、右腰に刀を差す彼にちいさく礼を言えば、「なんのことだ」ととぼけられた。

「日が暮れる前には帰る」
「お気をつけて」

 玄関まで見送ると、屋敷は途端にしんとした。
 湯のみを洗い、卓を片付けてから鍛冶小屋に入る。先日から真鍮の彫金に凝っていたが今日は手を付ける気になれず、納戸の中の刀を取り出す。
 水柱生還の報を聞いたときに打っていた刀は、折ってしまった。その後に打ったこの数振りの刀には、樋(※注記:刀の側面に彫る溝のこと)を入れてある。もともと日輪刀は、鬼の首を落とすために使うのが主目的であるため、基本的に樋は入れない。刀自体の重量が落ちれば刀を振る際に遠心力による力が乗り切らず、首が落としづらくなるからだ。だから蟲柱様のような女性剣士でない限り、樋は入れてこなかった。
 しかし、その後に打ち始めた冨岡の刀には樋を入れるようになった。片手でも扱えるようにするためだ。樋を入れれば軽くなる代わりに強度は下がる。鬼と戦っていたときにはたびたび刀を折っていた冨岡が折っていないということは、それだけ相手は弱いということだろう。でも、しかし。
 わざわざ嫌な想像をしても仕方ないと首を振る。わたしに危ないことはやめてくれなどと言う権利はないし、言ったところでやめてくれないだろう。現に、今までそんなことを教えてくれなかった。今回のように注意喚起の必要がなければ、ずっと教えないつもりだったのだろう。
 取り出した刀を納戸にしまい込む。少しだけ彫金の仕事をしてから小屋を出れば、日が傾きかけたころだった。だいぶ日が長くなってきたとは言え、五時をすぎると薄暗くなったように感じる。
 冨岡が帰ってくる前に食事の支度をはじめようと庭を歩いていると、庭先に白い鳥が佇んでいるのを見つけた。鷺か大きな鳩かと思ったが、「クアクア」と鳴いているので恐らく白変種か白子のからすだろう。珍しいものだと思い見ていると、人懐こいのか逃げもしない。お館様からの伝令の鎹烏かとおも思ったが、そうでもないらしい。ただこちら向かって、近寄ってこいとでもいうように何度も鳴いている。
 餌でもほしいのかと思い、一度屋敷に入ってあられを取ってきて割って与えれば、足元近くまで近づいてきてつまんでいる。ずいぶん人慣れしたからすだ。近所で飼いならしている者がいるのかもしれない。

「お前、どこで飼われているの? こんなところで餌をもらって、ご主人に怒られない?」
「クア」

 大丈夫とでもいうようにひと鳴きし、着物の袖をつまむ。本当に人懐こいからすだ。鎹烏でもここまでではないだろう。ああでも、冨岡の寛三郎ならこれぐらい懐こいかもしれない。そんなことを考えていると、別のからすを思い浮かべたことがわかったのか、さらに着物の裾を引っ張ってくる。

「こら、そんなに引っ張らないで」

 なんだというのか。クアクアと鳴いて、翼を羽搏かせるからすは何かを訴えているようにも見える。なにか取ってほしいものでもあるのだろうか。からすは光物が好きだというし、と引っ張っるほうへ行ってみようかとしたとき、門扉に冨岡が現れた。日が暮れる前には帰ると言っていたが、もう帰ってきたらしい。

「おかえりなさい」
「ああ、戻った」

 からすから顔をあげて出迎えると、冨岡もうなづく。その間にわたしの着物を裾を離して、からすはばさばさと羽音をさせて飛んで行った。

「白いからすか、珍しいな」
「ええ、なんだか人懐こかったので、飼われているのかも」
「ふうん」

 冨岡は鼻でいい、三和土を上がる。草履を脇に避け、羽織を脱ぐのを手伝った。刀を抜くこともなかったようで、手入れもせずに刀掛けへ戻す。

「ごめんなさい、夕飯はこれからなんです」
「大丈夫だ。昼飯を食べたのも遅かった」

 たわいない話をして、わたしは羽織を衣文かけへ戻す。ほっかむりの手ぬぐいを交換して戻ってきたときには、冨岡は縁側でぼんやりしているようだった。
 そのまま夕食を作り、もくもくと食べる。冨岡が口を開いたのは、風呂に入りそろそろ布団を敷こうかというころだった。風呂から出てくると、涼んでいた冨岡がぬるい茶を渡してきた。居間を指して座れというので、その通りにする。

「宇髄が、いい加減に祝言をあげるか籍をいれろと。この機会に」
「はあ」
「お前は、どうしたい」
「わたしは……」

 馬鹿ではないのだから、宇髄様が言わんとすることはわかった。独り身の女がさらわれているのであれば、身を固めるのは対抗策であるし、彼には何度か祝言をあげないのかとせっつかれたことがある。この機会にそうしてしまえと冨岡も言われたのだろう。
 冨岡は読めない目で、こちらの様子をうかがっている。わたしは溜息を押し殺した。

「冨岡のいいと思うようにしてくれれば、それに異論はありません」
「…そうか」

 冨岡は短く言って、湯飲みを持って立った。わたしが洗うと言ったが、いいと首を振って自室へ戻っていく。布団も自分で敷くので、お前も早く寝ろと言い残して彼はふすまの向こうへ消えた。
 翌日の朝になり、起きれば窓辺に白い花が置いてあった。冨岡がなにも言わなくても、それが救いに思えた。

 翌日には宇髄様の奥方の雛鶴さんが白無垢の仕立て直しをすると言って、採寸に訪れた。冨岡は変わらず宇髄様と出かけて、わたしは鍛冶小屋で細工を作る。先日の白いからすが来るので、あられをやったりしていた。そういう日々が、数日続いた。
 祝言の日取りが決まったと冨岡が教えてくれたのはその数日の後のことで、わたしは「わかりました」とだけ答えた。風呂を使って部屋に下がる。窓辺に飾った白い花たちは不思議なことに、あれからしおれもせず、花が開いている。花を見ながら思う。
 冨岡義勇という男に、わたしはふさわしい人間でない。
 その気持ちは、花と同じように枯れず、残っている。わたしの寸法を測りに来た雛鶴さんにも窘められるようなことも言われたが、そう言われたところで、自身でどうこうできるものでもないのだ。
 冨岡に嫌われているとも思わないし、わたしは冨岡を好ましく思っている。しかし折れる刀を打った自分が一向に許せず、腹立たしく思っているというのが一番の事実だった。
 開け放した窓辺で、ちきりと、爪を立てるような音がする。見れば、最近よく来る白いからすがいた。夜に来るのは珍しい。白いからすは白い花をくわえていた。ああ、この白い花は冨岡ではなくこの白いからすが持ってきていたのか。
 冨岡ではなかった。
 そのことに合点がいく気持ちで、からすが差し出す花へ手を伸ばす。牡丹か、芍薬だろうか。折り重なった花びらの中には、水のような透明な液体がたっぷりと注ぎ込まれており、不思議なことにこぼれもしなかった。からすの差し出す花を取った瞬間、花の香りが強くなる。
 そのとき奇妙なことが起きた。白いからすがいつの間にか、宇髄様ほどの背丈の、成人男性に変わっていたのだ。男は白く衣がいくつも折り重なってずるずると丈の長い着物を着ており、髪も透き通るように白かったが、瞳だけが黒々と濡れていた。

――やっと、?まえることができる。

 男は風のような奇妙な響きのする声で言い、わたしのほうへ手を伸ばす。ふと脳裏に、きっと近頃女がさらわれるというのは、この奇妙な男が原因なのだろうという直感があった。
 ぐるり。体を動かすこともできずに視界は暗転する。
 意識が途切れる間際に思ったのは、これで冨岡と祝言をあげなくても済むという身勝手な気持ちだった。





 冨岡義勇は、いささか、焦っていた。
 婚姻を前提に屋敷に住まわせていた治金しづきが、屋敷から消えたのだ。彼女の部屋から物が倒れる音がして様子を見に行けば、文机の上の投げ入れの花器が倒れており、水が滴っている。白い花の花弁が畳の上に散らばっていた。彼女の姿はなく、名を呼んでも返答はない。庭にも屋敷の中にも彼女の鍛冶小屋にも、どこにも姿はなかった。
 冨岡はすぐに烏を宇髄に向けて飛ばした。おそらく、彼女も頻発している連れ去り事件に巻き込まれたのだろう。今まで聞いた話では家屋の中にいる娘が連れ去られた例はなかったが、屋敷の中なら彼女が安全というわけでもなかったらしい。
 一時間もしないうちに、宇髄が炭治郎を連れて屋敷にやってきた。炭治郎は屋敷に足を踏み入れるなり、ぎゅっと眉をしかめる。

「今まで見てきたどの場所より、芍薬の臭いがきついです。それに…、喜び?
 念願が叶ったみたいな、ものすごい重量の歓喜というか、そういう類の臭いの残り香があります。これは今までの場所にはなかったものです」
「それは、なんだァ? 治金をさらったことが念願だった、嬉しかったということか?」
  
 宇髄の問に、炭治郎は眉をしかめる。

「ううん、何が嬉しいかまではわかりませんが……」
「状況的には、そうだと考えるのが順当だろう」

 言い淀む炭治郎の言葉を引き取って、冨岡は頷いてみせる。宇髄は「だから早く祝言あげろって言っただろ!」と冨岡を怒鳴りつけ、やってられないというように頭を振る。しかし、そうは言っても彼女の気持ちをなおざりにできないのが義勇であった。
 そもそも彼女を娶れば、この先に五年も生きるかもわからない義勇は、いずれ彼女を寡婦にする。年若い彼女であれば他の嫁ぎ先も見つかるであろうが、ケチがつくには違いない。そのような選択をしづきにさせることが思いきれないのは、義勇自身の問題でもあった。
 ただケチがついたというのであれば、自分はもう彼女に対して責任を取るしかない立場にいるのだ。お館様へ相談へ行くという宇髄のあとを炭治郎とともに走りながら、義勇は思った。あの夜のことは、まさしく過ちであったと。



 今でこそああも他人行儀な話し方をするが、昔はそうではなかった。
 十代半ばの頃のしづきは、しづきの師匠と似て気性のあらい女で、義勇は口下手ゆえに馴染の刀匠ができずに難儀していたのだが、しづきは若い女の刀匠だということ、そしてその口の悪さや頑固さから忌諱され、修羅の娘だとか火男のまなご、愛娘だとか呼ばれていた。お互いに馴染の刀匠と剣士ができずに難儀している同士、もしかしたら気が合うかもしれないなどと責任のないことをしづきのお師匠が言い出して、鱗滝がそれに乗ってしまった。先生がいうのであれば、と義勇は何の衒いもなくしづきの打った刀を受け取った。
 驚くことにしづきの刀な義勇の手のひらによく馴染み、よく切れた。つっけんどんな物言いや、久方に会えば出会い頭に急に刀を叩き折るような奇行もあったが、もともと会話のない義勇としづきの間では、あまり問題のないことであった。義勇はしづきの奇行に驚いてもそれが顔に出なかったし、しづきは義勇のことを気にしてはいなかった。だからなんだかんだと、うまくやれたのだと思う。
 転換期だったのはしづきの師匠が鬼に殺され、義勇が水柱に上がったころだ。しづきにはそのころには義勇以外にも何人か抱える剣士がおり、義勇は功労を認められ水柱となった。自身はそれにふさわしくないと思っており、しづきは自分が死んだお師匠の跡継ぎだということを重責に思っているようだった。彼女のつっけんどんな物言いは取り繕うような敬語に隠れ、奇行は見えないところでするようになった。
 義勇から見た彼女は、遠い存在であった。自分を律し、師匠の跡継ぎとして努力している人だった。
 自分はどうだろうか。情けなく思った。

 ただ、あの日、しづきが最後に刀を届けに来た日。
 急いできたのか珍しく息は上がっており、屋敷で出迎えた義勇を見て瞳を見開いた。押し殺すような表情の女が、珍しいことだった。少し気分がよく屋敷に上げて風呂と食事を振る舞い、そう、最後に世話になったと彼女にも挨拶しなければと思ったのだ。彼女もたしかに自分のそばで、自身を支え続けてくれた一人に間違いなかった。
 彼女のような人を守るために、きっと自分の腕はあるのだ。
 そのとき心からそう思って、彼女へ礼を言った。そうしたら、なぜかしづきは、泣きそうな顔をして顔を上げてくれ、やめてくれと懇願するのだ。
 彼女の師匠は鬼に殺されたのだと告げたときさえ、そんな顔はしていなかった。唇を噛み、義勇の肩に触れる手のひらは細く、頼りない。

「冨岡、やめてよ……」

 ここ最近の敬語を崩して、こぼれるように懇願したしづきに、その華奢な手のひらに、自分の手のひらを重ねていた。情けないことであるが、自分がこの修羅の女に惹かれていたのだと知ったのは、まさにこの瞬間だった。
 修羅の娘、火男のまなご、気性のあらい、表情を変えない、自分の仕事に誇りのある、気高い女。それが自分の目の前ではこんなにも弱弱しく、懇願の言葉を吐いている。
 彼女に対してなんて愛しい女なのだという気持ちと、こんな風に感情を揺らして溢すのは自分の前だけにしてほしいという独占欲があふれて、そのまま唇へ吸い付いた。しづきは普段の強気の影もなく、冨岡の腕でしどけなく抱かれている。なにがあってもいい、この女を手に入れられるなら、命だってなんだってくれてやると思いながら、欲を貪った。

 その後、義勇は片腕を失うことにはなったが、彼女の元へ戻った。そのときにはしづきはすでに、元の頑なな女に戻っており、義勇はおそらく自分が順番を間違えたのではないか、と大いに反省することになる。あれは、あの情欲の夜は、きっと違わず過ちであったのだろう。



 産屋敷とはやはり流石のもので、宇髄からの報告を聞くやいなや、お館様―輝利哉は状況を加味して情報を集め始めた。日付が変わるころにはおおよその情報が揃っていたのだから、産屋敷の情報網は恐ろしい。

「義勇は、刀鍛冶の里へ来る前の彼女の来歴を知っていますか?」

 輝利哉の問いに、義勇は首を振った。
 宇髄と炭治郎は不死川と合流して近隣へ、他に被害者がいないかを確認しに行っている。気を遣われたのだろうと、義勇でもなんとなく悟る。輝利哉は二人の姉がまとめた調査書を眺めながら、とつとつと話した。
 曰く、治金しづきは元々は熊野の出身で、そこから祇園の花街へ売られ、その祇園で後の師匠となる刀鍛冶に出会ったのだという。そもそも、しづきの師匠となった人物は中々気性の荒い御仁で、そのときしづきが花街で暴れていたのを見て、気に入ったのだ。見世茶屋で禿だったしづきは、悪食の客に買われそうになり暴れ、自分で自身の目を突いて売り物にならなくしたというのだから、呆れる。

「しづきのお師匠は、先生の刀鍛冶でした。
 自分に合う刀鍛冶を見つけられなかった俺に、先生がしづきを世話してくれたのが出会いです。先生の刀鍛冶が女の子を弟子にしたという話は、それ以前に先生から幾度か聞いていました」
「そう、私はしづきのお師匠とは直接の面識はないのですが、父の書置きを見るとなかなかに愉快な御仁だったようで。しづきとは似たもの同士で通じ合うところがあるのでしょうね。
 さてそのしづきですが、祇園へ売られるまでは熊野の山中の寺社内に勤めた社務の娘でした。しかし、熊野は修験道が盛んに行われた山。ですから、明治の神仏分離ではかなり煽りを受けたようですね。寺社が廃れるにつれ社務の一家は離散し、しづきは祇園に売られた。
 ところで、熊野の神使は少し珍しいのですが、義勇はこれが何かわかりますか?」
「…いえ、不勉強ながら存じ上げません」
からす・・・ですよ。熊野大社やこの近辺の神社は、狛犬ではなく、烏を神使とするのです。これは八咫烏が転じたものだという流説もありますが、今は置いておきましょう。
 義勇、お前、先日からしづきが「白いからすがいる」と話していたと言いましたね? これは、熊野の烏ではないか、と私は思うのです」

 義勇は言葉につまり、輝利哉の顔を見上げた。輝利哉も義勇をじっと見、こくりと頷く。

「つまり、しづきは熊野の神の使いにさらわれたのではないか、という話です。
 僕らは、神かもしくはそれに連なるものから彼女を取り戻さねばならないのです。義勇」

 お前にそれができますか?
 輝利哉の目はそう問うていた。義勇はごくり、と生唾を飲み込む。それはつまり神に闘いを挑めと、そういうことだ。義勇は刀の柄をぎゅっと握りしめた。隻腕の己にそれができるか、否か。お館様の目がじっと自分に問うている。







 てんてん、ころり、てんころり。
 琴をつま弾く音は、物心つかない幼子の頃からも馴染深いもので、はっきりとは覚えていないが寺社のお庫裏様かお嬢様が弾かれていたのだろう。 自分はと言えば興味のない事柄には集中できない質だったので、寺社を囲む森で遊び歩いた覚えがある。きっとそのときに、これ・・と出会ったのだろう。

「どうだ、しづき。懐かしいだろう、お前の生まれたところでよく奏でられていた琴だよ。
 あれはいいところだったのに、今は見る影もない。残念なことだなあ」

 白い男はのんべりとした口調で言い、朱塗りの杯を煽っている。近くの侍女がこちらにも杯を勧めるが、いらないと首を振った。侍女は無理強いはせず、下がる。
 あれは二軒先の家の娘だろうし、その向こうにいるのはいなくなったと父親が捜し歩いていた隣村の娘だ。ここにいるのは、みな年は十五六までの、いなくなったと探されていた娘ばかり。つまりこの白い男が近隣から娘をさらった犯人ということだろう。

「わたしはあなたのことを覚えていないのだけど」
「ああ、しづき、かわいそう、かわいそうに。
 俺のことも忘れてしまうほど、今までの生活は苦労したのだね。大丈夫だ、これからは俺がお前のことを守るから。
 もう苦労も心配も、何もしなくていいんだよ」
「そうではなく、屋敷へ帰してください。心配されているから、申し訳が立たない」
「しづき、しづき、俺のかわいいしづき。もう心配しなくていいんだよ。俺がずっとずっと守って大事にしてあげる。
 もうどこへもやったりするものか」
「そうではなく……」

 思わず深々と溜息がでた。 
 白い男へ「お前のことなんて知らないから家に帰せ」と言ってもこの通り暖簾に腕押しもいいところで、まったく人の話を聞いていない。熊野の話をしているから生まれ故郷の者だとは思うが、覚えはなかった。昔のことを覚えているのは苦手な質だ。誰なのか思い出そうとしても、まったく心当たりはなかった。埒が明かない。
 いい加減嫌気がさして、すっくと与えられた席を立ち上がる。衣装もいつの間にか着替えさせられていて、何枚も衣を重ねて裾が長く動きづらいことこの上ない。

「しづき、しづき、どうしたんだい。どこへ行くの?」
「返す気がないのなら、いい。自分で探すから」
「しづき、まさか俺を放って行こうというの? せっかく会えたのに、連れてきたのに、なんで、どうして、なんで?」

 白い男ののんべりとした口調が急に湿っぽくなり、腕をぎゅっと掴まれた。男の手のひらは凍りそうなほど、冷たい。
 周りで踊ったり、琴をつま弾いていた女たちはいつの間にかいなくなり、部屋はがらんとだだっ広く感じる。男はぎゅうぎゅうとわたしの腕をつかみ、離さない。白い男からひりつく空気が漏れるようだった。思わず後ずさると、男はわたしがおびえたのがわかったのだろう。こちらを見て、にやりと笑った。

「そうだ、早く祝言をあげてしまおう。しづきが心細くならないように、それがいい。怖いからそういうことを言うんだろう、帰るだとか、そういうことを言うんだろう? そうだよね? しづき、そうでしょう?」
「は、離して、」

 ぞっと、背筋を白い男の猫撫で声が這い上がる。恐怖にぎゅっと身を縮めたとき、まるで降るように声がした。
 
「旦那様、旦那様、いささか性急にすぎましょうぞ。みっとものうございますぞ」

 いつの間にか白い男から離れ、間に小柄な老人がいる。青い衣を着て、背骨は曲がっているがしゃんと立っている。

「しづきもお疲れのご様子。疲れた女子に無理強いのようにして、ご立派なこととは言えませんぞ」
「しかし、しかし、しづきが帰るというのだ。そんなことを言われたら、俺だって……」
「しづきも急なことで混乱しておるのじゃ。少し休ませてあげましょう。
 さあ、しづき。こちらへ」

 老人がこちらへ手を伸ばす。老人の顔はふさふさの立派な眉毛に隠れてろくに見えなかったが、不思議と知っているように思えた。皺くちゃの手に導かれ、広い部屋から回廊へ出る。老人がぐんぐんと進んでいくと、回廊はやがて靄の中へ消えた。靄の中で老人はやっと立ち止まり、こちらを振り向く。白い乳白色の靄が濃くて、老人の顔はもうなにも見えなかった。

「しづき、ここは危険じゃ。あのシンシに飲まれれば帰れなくなる。その前に帰るのじゃ」
「帰るって言っても、帰り路なんてわからない。それにあなたは、誰?」
「ワシは今はあのシンシの下男じゃ。
 よいかしづき、そのうち迎えが来る。それまであのシンシに色よい返事をしてはいけない」
「わからない、それは、どういうことですか?」
「わしはあのシンシの相手をしてくる。お前の姿を誤魔化してあげるから、しづきはどうにかあのシンシから逃げる道筋を見つけるのじゃ」
「どういうこと? それに迎えが来るって」
「迎えが来ても帰れない。シンシとしづきの契約を破らなければ」

 遠くで呼び声がした。あの白い男がわたしを探しているのだ。老人の輪郭は靄に解けるように形を変えて、その場から浮き上がった。ばさりと翼が広がる音がする。「シンシが呼んでおる。行かなければ」 そう言って、わたしの手を離した。

「待って、私はどうすればいいの? あの男なんて私は知らない」
「しづき、きっと思い出してあの男との契約を破るのじゃ、お前にはできる」
「なんで、どうしてあなたは私を知っているようなことを言うの?」

 どうしてなのかわからないのに、ひどく老人と別れがたかった。老人が宙に浮きあがり、今にも行ってしまいそうだ。わたしはいつの間のか自分の体は落下していくのを感じた。びゅうびゅうと風を切る音が聞こえる。

「知っている、ずっと知っているとも。しづきもワシをよく知っている。
 お前なら大丈夫だ、きっと帰り路を見つけられる。なにせ……」

 そのあとの言葉は聞こえなかった。老人は光の粒のように小さくなって消えてしまい、わたしの体はびゅうびゅうと風を切って落ちていく。ぎゅっと目を閉じると、絞られた涙が目じりを少しだけ濡らした。わたしはあの老人に会って泣いたのだ。なぜだろう、理由はわからないのに、涙が止まらなかった。あの老人が、最後までわたしを鼓舞してくれたから、それがひどく懐かしく思ったのだ。



 治金しづきというのは、頑固で面白味のない人物だと昔から自身を評していた。
 嫌なこと、特に自身の納得のいかないことは何としても頑迷にやらず、それは熊野の生まれ故郷を出てから特に顕著になった。熊野で仕えていた寺社には年の近い子どもはおらず、いつも一人で遊んでいたことも影響していたのかもしれない。花街へ奉公に出され、最初は下働きをしていたがそのうちに禿にされてしまった。姉と呼ばれる娼妓の世話をするのは嫌いではなかったが、その姉にところへ来る男たちのことはどうしても好きになれなかったし、自身がこまごまと着飾られることも嫌いだった。勝手に髪飾りをむしって袂をたくし上げては、見世の女将に怒られていた。
 転機があったのは十二三の頃で、それまでは山猿のようだった地黒が徐々に落ち着き、他の禿よりも体の発達が早かったこと、顔立ちが物憂げで大人びていたことが原因だった。世話についていた娼妓の客の目に止まり、水揚げをという話になった。
 どうしても許せなかったのは、それまで通っていた姉の娼妓を年増よばわりして泣かせたことで、世話をしていた姉の娼妓は捨てられた腹いせに、首をくくって死んだ。その客がひと際嫌いだった理由は、娼妓の姉と自分の前では見せる態度がまるで違ったことだ。つまみ食いのように自分に手を出すなら、姉にお前だけなんて愛を囁いて、あの斧のような、及ばぬ恋情を抱かせないでほしかった。
 首をくくり死んだ姉を出汁に、すすり泣く真似をする客にはほとほと嫌気がさした。きっとこの世界で生きていく限り、こういう男に振り回され狂わされていく。少なくともこの客の男にとって、自分も姉ももてあそぶ玩具でしかないのだと思い至ったとき、わたしは結われた髪からかんざしを抜き取り、左目に突き立てていた。ぼた、ぼた、と血潮が乱れた着物に滴る音が生々しく、男の悲鳴が部屋に空回りする。現れた女将の顔面は蒼白で怒りと困惑に満ち、これはきっと殺されるだろうとぼんやり思った。実際、売り物にならなくなった自分が殺されなかったのは、偶々その場に居合わせた「お師匠」がとりなしてわたしを買い上げたからだ。「お師匠」は日輪刀の刀鍛冶だった。



「ちょっとあんた、ぼんやりしてないで手伝ってちょうだい!」

 頬を叩くような声に、思案に沈んでいた脳みそがたたき起こされる。いつの間にか白い靄は晴れ、館の台所のようなところにいた。周りの女たちは忙しなく立ち働いている。目の前の作業台にどすんと置かれた芋を手に取り、取り合えず皮をむき始める。芋は里芋でぬめったが、刃物の扱いと細かい作業は得意なので、苦なく剥いていく。いくらか剥いたところで台所を仕切っていた娘がやってきた。

「あなた存外、芋を剥くのが上手じゃない。向こうの子に、剥き方を教えてやってくれないかしら。どうにもへたくそで、お食事の時間に間に合わないわ」

 ここでわたしが剥いた分だけでも結構な量があるのに、まだ剥くとは結構なことだ。一体何人分なのかと思いながら娘の指すほうを見れば、うつむきがちのまま、拙い手つきで芋を剥く娘が確かにいた。仕切り役の娘は忙しいと言いながらどこかへ行ってしまったので、仕方なく手つきの拙い娘へ近づく。ただ娘にしてはどうも体つきが筋張っていないだろうか。訝し気に顔を見れば、向こうもこちらを見た。

「と……!」
「待て、名前を出すな、呼ぶな!」

 すんでのところで呼ばずにいられたのは、冨岡義勇の名前だった。冨岡が女物の着物を羽織って、拙い手つきで芋の皮を剥いていたらしい。見たことのない光景に思わず言葉も止まる。そんなやり取りをしているのに、周りの女たちは気にする素振りもなく働いているままだった。

「ここへ来たときに会った老人が、まやかしの術をかけてくれると。自分から名を明かしたり呼ばれたり、性別を誇示しない限りは他の女と同じように扱われると。ただ、そのせいで台所を仕切っている娘に芋の皮むきを命じられてしまい……」
「それでこんなところで皮を剥いていたんですか」

 思わず呆れの目線を送ると、冨岡はむっとした顔になってわたしを見る。

「仕方ないだろう。お前が烏にさらわれたから、お館様にお願いして道をつないでいただいたんだ。原因を取り除くまで、派手に動くこともできない」
「そうでした。ここはどこなんです? 私は気づいたらあの白い男のそばにいて」
「おそらくその白い男というのが、烏だろう。庭に来ていたあの白い烏だ」

 冨岡はお館様の立てた推論をそのまま聞かせてくれた。熊野の神使。そういえば、あの老人も「神使との契約を切らなければいけない」とずっと言っていた。

「確かに私が幼少期に過ごした寺社は狛犬ではなく烏がいましたが、でもあんな白い男とした契約なんて覚えがありませんよ。
 熊野の神使が烏だったことだって、今教えられて初めて思い出したくらいだし」
「お館様は、人間の常識はそれ以外のものには通用しないだろうと仰られていた。幼い子どもがよくわからず頷いたことでも、それが神やあやかしには正式な契約になってしまい、破るには苦労するだろうと」
「そうはいっても……」
 
 そのときふと、冨岡の右腕が目に入った。鬼との闘いで切り落とされたはずの腕が、そこにある。思わず凝視すると、冨岡は少し笑ってその腕を見せてくれた。

「ここに来たときに出会った老人が教えてくれたんだ。ここは意識が強く働く場所だから、思えば、あるものがなくないものがあるとされると。俺の腕は元々あったものだから、腕があったときのことを思い出せば、その姿を呼び出せるはずだと」
「そういえば、髪も長いですね。久しぶりに見た」
「ああ」

 冨岡の黒髪が頬に落ち、陰をつくる。こわごわ触れた右腕は確かに存在していて、泣きそうだった。「そんな顔をしないでくれ」 冨岡が言って、わたしの頬に左手を寄せる。冨岡は柳眉をひそませた。

「やはり気にしていたんだな。あれほど、お前のせいではないと言ったのに」
「それは……」

 そのとき、どおんと地面が揺れるような轟音が響いた。追って、身の毛のよだつような獣の鳴き声が聞こえる。ぎゃおオンと響く鳴き声に押されるように台所へ飛び込んできた女たちへ、何事か聞けば、迎えたはずの花嫁が消えたのだという。

「おそらく、お前のことだろうな。いないことがばれたんだ」
「そんな、あのおじいさんは……」
「様子を見に行く」

 口々に怖い怖いと悲鳴を上げながら逃げていく女に逆らって、騒ぎの元凶へ近づいていく。そこは先ほどまで閉じ込められていたあの広々とした部屋で、部屋の中ではあの男は人間とは思えない形相で、暴れ狂っていた。

「どこへ行った、しづき! しづき!!」
「旦那様、そのように暴れるから花嫁も怖がって隠れてしまうのですぞ。まずは怒りを収めて……」
「だがしづきは俺の嫁だ! しづきも俺のものになると言った!」
「そうだとしても、人間の娘は臆病です、ああほれ、御覧なさい。侍女もあのように腰を抜かしておるでしょう?」

 老人が飄々とした仕草のまま、こちらを指す。冨岡は背中にわたしを隠して、ぎゅっと体をこわばらせた。わたしからは構えたのだとわかったが、白い男から怖がっているように見えたらしい。男から吹き出ていた怒りは少しだけ萎み、老人はその期を逃すまいと畳みかけた。

「そうだ、あの娘で練習をしてはいかがですか? あの娘が怖がらせないようにできれば、花嫁にも優しくできましょうぞ」
「しかし、俺の花嫁はしづきだけだ」
「旦那様、そんな時代遅れな。少し話をしただけで色心などと、時代錯誤も甚だしい。花嫁にも笑われますぞ」
「そ、そうか」

 老人は言葉巧みに男を丸め込んで、こちらを手招いた。冨岡と目くばせをし、そろそろと近づく。距離を詰めても老人が言った通り、わたしの姿は白い男には「しづき」だとはわからないようで、見向きもしない。

「ほら、なかなか美しい娘ではありませんか、名はなんと? おお、ユウか。
 ではオユー、オユーよ、旦那様とお話しするのじゃ。そっちの下働きは、そうじゃな。お茶の用意じゃ。なに、ワシも一緒に行く」

 戸惑った顔の冨岡はそのまま脈絡のない白い男の語りに口を挟むことができず、その場に置き去りになってしまう。老人はわたしを連れて廊下をずんずんと進んでいき、先ほどとは違い人気のない庭に出たところで振りむいた。

「もう庭まで完成してしまっておる。あれにそれだけ力がついてきているのじゃろう。
 どうじゃ? 契約は思い出せたか、破れそうか?」
「と……オユーから、あれがわたしの出身地の神使らしいということは聞きましたが、やはり覚えがないんです」
「そうか、あれはな、山中の臆病な獣じゃ。鬼舞辻が好き勝手しておる間は出てこれなかったものが、いなくなってこれ幸いと出てきた。通常であれば力を失っておるはずが、「しづき」と契約があったおかげで消えずに存在できたのじゃ。だから花嫁に固執しておる。「花嫁」というからには、婚姻の約束かそれに似たことがあったのじゃろうて」
「そうは言われても……」

 近くに遊ぶ相手などいなかったのだから、いつも一人で遊んでいたのだ。でもそう言われれば、少しの間だけ喋った男の子がいた気がする。それから……

「ああ、思い出した。確かに熊野を出る少し前に話した男の子がいて、そのあとに寺社を訪ねてきた人があって。私たちは熊野を出ることを決めたんです」
「ほう、なぜじゃ?」

 なぜだっただろうか。男の子は話すのがへたくそで、そう白くて大きい人に練習相手になってほしいと言われたのだ。遊び場の近くにあった|洞《うろ》にいつの間にか祠ができていた。そこから出てきた白い人に、言われた。
 祠は、お山に登ってきた修験者がいつの間にか作ったもので、作法のないものは邪法だと宮司のおじさんは怒っていた。私は、うちへお嫁に来るだろうと白くて大きい人に言われて、恐ろしくて逃げ帰ったのだ。白い人の目は、うろと同じように、いつも伽藍洞だったから。

「思い出した……。近くの洞穴に修験者が立てた祠からできたものです。
 私の生まれた家が仕えていた宮司は、「作法がないもの」と呼んでいた。私はそこから出てきたものにお嫁に来るだろうと言われて、そのあと、私たちは熊野を出たんです」
「まだ契約ではないな。しかし、それ以外に思い当たることはないのじゃな?」
「ええ。頷いた覚えはないんです。でも、否定もできなかった。怖かったから」
「おそらく肯定はしていないという隙をついて、おぬしを熊野から逃がしたんじゃろうが、そのあとは? 何もないのか?」
「そのあとは、こちらでは白い烏に化けて私のところに通っていて、そう。白い花が窓辺に置いてあったのを、わたしは冨岡からの贈り物だと思って、それから、お菓子を上げました。あられをいくつか、あられ…。
 ……あられって何からできていますか?」

 わたしの問いに、老人は虚をつかれたような顔をした。知らないのだろう。あられ、あられは餅を揚げて作るのだ。何度か作ったことがある。それに花には夜露が溜まっていることがあった。近頃窓辺にあった白い花は、近頃どれも杯に似た形をしていた。

「餅から作られた「あられ」と白い花の「杯」で、三々九度か三日夜通いを模されたとか、そういうことってあり得ます…?」
「あちら側でそれを「そういう作法」だと受け取ったのであれば、そうなんじゃろう。花嫁側が婚姻を受けたと取られたのじゃ」
「じゃあ、どうすれば……」
「古今東西、気の乗らない婚姻は破談にするが、破談にするにも作法があるものじゃ」

 老人はそう言い、にっこりと笑った。こっちじゃ、と言った声は、いささか弾んでいた。







 義勇はいささかどころか、かなり困っていた。茶を淹れにいくといった老人としづきは戻ってこず、目の前の白い男は延々と自分の話をしている。生まれた熊野での苦労話、鬼に脅かされた日々、近所の気に入らない人間に作法がないと言われたので作法を身に着けるために四苦八苦した話、嫁取のために雇用主に嫌味を言われたなど、よくもまあそんなに喋ることがあるものだと義勇は思う。
 思いながらも、口下手ゆえに口を挟むこともできずにただ喋らせ続けていただけなのだが、白い男はそれを「自分の話をよく聞いてくれる」と思ったらしい。喋る内容はだんだんとしづきとの思い出話に変わっていった。
 曰く、しづきは面差しのきれいな女だが金気臭いだとか、昔も喋っている間に他のことに気を取られて遊びに行ってしまっただの、再会すれば陰気な男の屋敷に住んでいて身持ちが悪いだの(その陰気な男は目の前にいるのだが)、こちらが喋っていても平気で遮って自分の言いたいことを言うだの、枚挙にいとまがない。義勇からしてみれば、しづきとはそういう女であったし、彼女の気ままなところや一つのものに縛られない気質を気に入っている。この男とは気が合いそうにないなと思いながら眺めていると、不意に言葉が止んで、白い男がこちらをじっと見つめていた。

「お前は本当に俺の話をよく聞いてくれる、いい娘だ。俺は今までしづきしか知らなかったからあれを嫁取しようとしていたが、もしお前と先に出会っていれば……」

 勘弁してくれ。義勇は白い男の言葉に怖気が立って立ち上がろうとしたが、後ろからぐっと肩を押されて立ち上がることができなかった。背後を見れば、老人がいつの間に戻ってきて、義勇の肩を抑えているのだ。

「ホホ、これ旦那様。この娘が気に入りましたか? しづきよりも、この娘と結ばれたいと?」
「ああ、ああ。この娘がいい、この娘がいいのだ。しづきは気が強い、こわい女子だ、だからしづきよりもこちらがいい」
「この娘に惚れましたか?」
「そうだ、そうだ。この娘に俺は惚れた。初めてだ。この娘がほしい、なァ」
「そうですか、旦那様。それを人間たちは「浮気」と呼ぶのでございますよ。のう、しづき」

 老人の掛け声に部屋の向こうを見れば、しづきが立っていた。冷ややかな目をしてこちらを睨んでいる。他人事ながら、その目線に義勇の背中にも冷や汗が浮き出た。しづきという女は、怒るととても怖いのだ。

「人をこんなところまでさらってきて、別の女がいいのですか。…そう」

 しづきはそこまで言い、すうっと息を吸い込んだ。白い男は蒼白な顔色で、まさに浮気が見つかった男そのものの顔をしている。それは、何があろうとこうはなるまいと、義勇に堅く決意させるには十分すぎるほど。いたく滑稽で、悲惨で、無惨で、哀れで、この上なく。
 愉快な表情であった。

「この浮気者! こんな婚姻など、破談です!!」

 しづきがそう叫んだ瞬間に、なにか玻璃が砕けるような音がした。ばりばりと音を立てて、広々と作られていた部屋も回廊も、館のすべてが崩れていく。羽搏きの音の間に、いつの間にかしづきの元まで空間を飛び越えていた。「早く!」 老人の声が急かす。

「早くここからの出口を探すのじゃ、婚姻は破談となったため、あれはこの領域を維持できない、早く、はやく!!」
「そうは言ったって……」

 しづきが自分の手を取って走り出す。背後からは破談を突き付けられた白い男のうめき声が聞こえてくる。「待て、待ってくれえ、しづき、しづき……」 周りの景色が靄へ消えていき、働いていた女たちがばたばたと倒れて靄へ消えていく。長かった髪が短く、義勇の纏っていた女物の着物も消え、しづきとつないでいたはずの右手も消えた。それを見たしづきの顔色が変わる。慌てて彼女の口を押えようとしたが、手遅れだった。

「なんで、冨岡、右手が!」
「しづき、駄目じゃ、名前を呼んだら、ばれてしまう!」

 老人の叱責も遅かったようだ。後ろから聞こえていたしづきを引き止める声が、騙されたことへの呪詛に変わる。それでも他の女のうつつを抜かしたという事実は変わりないからだろう。崩れていく空間は元に戻ることはないが、あっという間に白い男に追いつかれてしまった。
 周りの景色は気づけば深い森の中で、白い男の向こうにかがり火の炎が見える。奥に見えるのは祠だろうか。白い男の目が、炎の光をぬらぬらと反射する。しづきと老人を下がらせた義勇の前に、白い男はいびつに笑った。

「お前、しづきが住んでいた屋敷の陰気な男だろう。嫁でもない女を住まわせるおかしな奴だと思ったが、やはりしづきに惚れていたのか」
「当たり前だろう、俺は娶るつもりもない女に言い寄るような、浮気男ではないからな」

 義勇の言葉に白い男はにやけた笑みを消し、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。後ろではしづきが義勇の羽織を掴んでいるが、彼女を取り合うというのだから、結局はこの白い男と対峙しないわけにはいかなかったのだ。
 白い男はふんと鼻を鳴らすと、宙から何かを取り出すような仕草をした。手には刀が二振り握られており、一振りをこちらへ投げて寄越してくる。

「取れ。お前は剣士だろう。作法に乗っ取って、戦って勝ったほうがしづきを嫁にするんだ」
「いいだろう」

 頷いた義勇に「冨岡」としづきが咎める声をあげる。義勇は羽織を掴む彼女の手を外しながら、振り向いた。しづきは珍しく目の端を赤くして、こちらを睨んでくる。義勇は少しだけ笑ってしまった。彼女のこんな顔はあまり見たことがなかったが、こういう顔をして睨まれるのもいいものだと思うから、男というのは駄目なのだろう。

「しづき、このまま逃げてもあいつはお前を追ってくるだろう。ならここで倒しておく」
「でも冨岡は、腕が……」
「しづき、お前は俺が負けると思うか?」
「……思わない」

 しづきの拗ねたような返答に、義勇は少し笑って彼女の腰を抱いた。片腕では腰を引き寄せることしかできず、代わりに頬を摺り寄せる。しづきは一瞬固まったあと、両手を義勇の首に回して抱き着いた。本来、勝ち負けではなくしづきが選んだ男が自分であるという事実で白い男は身を引くべきだろうと思うが、相手はどうにも人間の条理が通用しないらしい。不安げなしづきの髪を撫で、放られていた刀を持つ。白い男は非常に不愉快そうな顔を隠しもしなかったが、それは義勇も同じだった。

「にやにやと笑って、何がおかしいのか」
「それは、笑うだろう。意中の女からやっと色よい返事がもらえたんだ。にやつきもする」

 訥々と事実を言った義勇に向かい、白い男は金切声をあげて刀を振りかぶった。







 肉薄し、つばぜり合い、後ろへ飛びすさる。冨岡の剣技は変わらず水のようで、ひらりひらりと立ち振る舞っては近づく。まるで打ち寄せては返す波のようだった。しかし。

「やっぱり、昔より速度が落ちてる。左手一本には、あの刀は重いんだ……」

 だから新しくあの刀を打ったのに、肝心なときにこの場にない。納戸にしまい込んだ樋入りの刀に思いを馳せるが、反駁する気持ちがそれをかき消す。どうせ、わたしの刀は折れるのだ。それは今だって同じかもしれない。わたしの刀を使えば、また折れるかもしれない。そうしたら、冨岡は負けてしまう。あの白い男はきっと冨岡を殺すだろう。そんなことは耐えられなかった。

「しづき、しづき」

 老人が自分を呼ぶ。ほとほとと、彼はもう泣きそうだった。それはそうだ。彼はずっと、冨岡義勇のためにここにいた。もはや老人にその冨岡を助けるすべはなく、彼の戦いを見守るしかないのだ。

「ギユーは本当にお前のことを好いていたんじゃ。昔から、あの子はお前さんに会うと少しだけ嬉しそうで、ワシはそれを見るとギユーが幸せになればよいと、ずっと思っておった」
「うん」
「ギユーがお前さんに妻問いをしなんだのは、できなんだのは、わかっておるじゃろう。先がわからないのに、お前を縛るわけにはいかないと、そんなことを言って」
「うん」
「じゃがワシは、きっとお前さんとギユーなら、幸せになれるじゃろうと。そう思っておったよ」
「うん、うん、ごめんね」

 目の前の争いは苛烈さを増していく。切り込んだ白い男の剣を冨岡が払い、踏み込みざまに一閃。白い男は飛びのいてからの突きを入れる。冨岡はそれを交わしたが、頬が一筋切れた。剣の技は冨岡のほうが上手だが、体のほうはそうはいかない。白い男は息切れの様子も見せず、冨岡の体力が尽きるのを待っているのだ。
 私のせいだ、ごめんね。
 泣きながら老人の形をした靄に抱き着いた。彼ももう、形作っているものを維持できなくなっているのだ。ほとほと、ほとほとと彼は泣く。

「お前は刀鍛冶の里の娘、火男のまなご。きっとお前には、ギユーを助ける力がある」

 みんながわたしをそう呼んだ。片目を潰して、気に入らない刀を叩き折り、お師匠の弟子だったわたしはきっと、火男に愛された愛娘に違いないと。でもわたしにはそんな力はない。力はなけれど。
 本当に刀鍛冶の里の火男がわたしを愛して娘のように思っているというなら、わたしを助けてほしい。好いた男を助けられる力をわたしに与えてほしい。神様がいるなら、どうか。
 
 そのとき不思議なことが起きた。
 わたしはいつの間にか祇園の茶屋にいて、今まさにかんざしを自分の左目に突き立てようとしている。声がした。師匠の声だ。

――今ここでかんざしで目を潰さなければ、お前はあの男に買われた後に別の男へ譲られ、子を産んでまあまあ幸せな人生を歩んでいたんだ。どうだい? 魅力的だろう?
「そんなの全然魅力的じゃない。刀が打てないんでしょう? そんなのは嫌」

 師匠の声はふふんと笑った。視界が切り替わり、刀鍛冶の里でお師匠と、鉄珍様がいる。二人ともにこにこと、珍しく笑っている。

――じゃあ、次だ。一時期、弟子をやめて鋼鐵塚の嫁に行く話があっただろう。あれも気性は荒いが真面目ないい男だ。お前は嫁として鋼鐵塚を支え、子をなし幸せな家庭を築く。いい人生だろう?
「ぜんぜん。言っているでしょう、嫁に入るなら刀は打たせてもらえなかっただろうし、そんなのお断りだって」
――強情な。
「なんとでも言えば」

 師匠の声はまた何かを思いついたというように、ふふふんと笑った。また視界は切り替わり、冨岡義勇の屋敷になる。庭先で子どもがきゃらきゃらと笑いながら駆け回っており、わたしは縁側からそれを眺めているようだ。

――これならどうだ? お前のお師匠が死ぬ前に、嫁入り先を探した中に、冨岡義勇の名前があったな。あの時嫁いでいれば、お前の大好きなお師匠に嫁入り姿を見せることもでき、冨岡義勇は腕をなくさず帰ってきただろう。どうだ? いい人生じゃないか?
「それは…」
――お前と冨岡の間には子が生まれ、いい人生になる。そうだろう。
「でも、……きっと私は、刀を打ってないんでしょう?」
――うん?
「私が刀を打たなかったから、冨岡は腕をなくさず帰ってきたのでしょう。
 でも、それでも私は、刀を打っていない人生など、いやだ。
 私が今誇れるのは、…冨岡を含めて私の刀を使った隊士たちの命を守ってきた、そういう自負の気持ちしか私は持ってない。だけど、だから、胸を張って、できることをしたと誇れる。……私にあるのは、刀を打つことだけ。それを私から取らないで、私は私のできることで彼らを支えて、一緒に戦いたい。
 私も精一杯自分のできることで一緒に戦ったのだと、他でもない自分自身へ言いたいの! 取らないで!」
――ふふふ、ふ、あァっはっはっはっはっは!
 見事に自分本位で、向こう見ずで、本当に愚かな娘だ…。面白い、面白い。

 瞬間、師匠の声は爆発したかのように笑い出して、わたしを愚かだとか面白いだとかのたまう。さすがにむっとして、一体何なのかと問えば、ややあってやっと声は笑い止んだ。

――失敬、失敬。お前があまりに熱心なもので、少しは願いを叶えてやろうかと思ったのだが、何も試練がないでは面白味に欠けるだろう。だから、お前は本当にふさわしいかどうか、試してやったのだ。
「どういうこと?」
「お前が火男の娘としてふさわしいかどうか、さ」

 急に目の前に現れた男は、炎のように燃え上がり逆立つ髪をして、左目に眼帯をしている。右目は炉心のような洞だ。目と鼻の先の男の肌は触れなくても熱く、じりじりと皮膚が焼ける。

「俺の娘だというなら、炎のような娘がいいと思ったが、お前はなんだ。溶かした鋼のような女だな」
「悪いですか」
「いいや、気に入った。ふさわしい。お前は俺の娘だ、娘にしよう。喜べ、火男の娘だ。アメノマヒトツノカミ様の娘だぞ」
「はあ?」
「刀、刀がほしいのだな。やろう、やろう。お前の打ったあの刀、お前の元に届けよう。そら、烏を借りるぞ」

 いつの間にか側にいた老人の影が小さくなり、烏の影に変わる。烏はぐんぐんと飛んでいき、ややあってわたしの手の中には一振りの刀があった。冨岡が右腕を亡くしたときに打った樋入りの刀だ。

「お前の話は面白い。お前が人の子として生を終えたとき、また会いに行こう。そして父に、お前の面白い話を聞かせておくれ。いいだろう、しづき」
「……」
「ん、おや、賢いな。そう、これが神との契約だ。簡単に交わしてはいけない」

 火男の言葉にうなづくことができず、戸惑っていると火男はそれに気づいたようで、にこりと機嫌よく、笑ってみせた。しかし笑う顔はどう見てもあくどいもので、つまり差し出すものがないのに受け取ることはできない。世の中にそんな甘い話があれば、それは詐欺だ。覚悟は、今決めろ。ぎゅっと奥歯を噛みしめた。

「……うん、いいよ、私が死んだら私を連れに来るんでしょ。面白い話を用意できるかわからないけど、できる限りで生きてみる」
「いいのか? 死んだらお前は俺の娘として連れて行ってしまうぞ?」

 覚悟を決めて頷いたわたしに、火男は本当に父親のような訝しげな顔をして、聞いてくる。見かけの髪はぼうぼうと赤く燃えて、肌は打った鉄のように熱く。なのに人の父親のような顔をするので、わたしは少し笑ってしまった。

「私はずっと、人に拾われて守られて生きてきた。宮司さんや家族はあんな化け物に目を付けられた私を逃がしてくれたし、花街では師匠に拾われて刀鍛冶になった。そして今あなたが私の父親になってくれるのであれば、そういう道理なんでしょう」
「ああ、…ああ! いいぞ、いいぞ。賢い娘は大好きだ」

 火男ががらがらと笑う。大きく開けた口の、火にまみれた洞の中で、石が飛ぶ。約束だ、約束だと言いながら、火男の姿は薄れていった。手の中の刀をぎゅっと握りしめる。冨岡に渡さなければ。その思った瞬間に、にゅっと逆さに、火男の顔が目の前に湧き出た。

「言い忘れておった。
 先ほどお前が俺の迎えを断っていたら、婿を先に連れていく予定だったがそれはやめにする。婿を餌にしなくてもお前は来ると言ったからな」
「やっぱり」
「それからもうひとつ。
 お前が刀鍛冶を降りて冨岡義勇の嫁に行った場合、冨岡義勇は腕を亡くさず帰ってきたが、代わりに首はなかった」
「は?」
「お前の刃は、確かに隊士を守っていたということだ。気張れよ、娘」

 ではな、と言って、火男は今度こそ消えていった。眼前に、白い男と冨岡の斬撃が戻ってくる。手の中には、自分の打った刀がある。それをぎゅっと握りしめて、わたしは声を張り上げた。

「冨岡!」

 振りかぶって、刀を投げる。刀は黒い翼が生えたかのように冨岡のところまで、一直線に飛んでいく。冨岡はそれを認めると白い男を大げさに切り結び、そのまま地面を蹴り後退する。体制を崩した白い男は冨岡を追おうとしたが、その顔面を黒い烏が襲った。「助かったぞ! 寛三郎!」 冨岡は受け取った刀の柄を咥え、鞘を払う。カァン、甲高く刀身を槌で打つ音がして、青く赤く、炎が燃え上がった。冨岡の頬を青く赤く炎が照らす。彼の青みがかった瞳が、冴え冴えと研がれていく。

「これで最後でいいだろう。火男のまなご、俺が嫁にもらい受ける!」

 はやく、速く、白い男より、かがり火の煌めきより速く。肉薄し、振り下ろす。
 刀身に灯った炎が冨岡の斬撃に乗り、水に孕まれて白い男に襲い掛かる。男は背を向け逃げ出そうとしたが、炎も水も一体となって白い男を飲み込んでいった。冨岡の振り下ろした刀身は砕け散り、体勢を崩した冨岡へ慌てて駆け寄る。がらがらと崩壊の音がする。飲み込まれる、このあわいの世界が壊れて、飲み込まれる。

「とみおか、」

 何とか彼の元にたどり着いて抱き着けば、崩れていく世界の中で冨岡は苦く笑って、「もうお前も冨岡になる」なんてことを言った。バカみたい。

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